本稿に取り組むきっかけ 

何だか後ろ向きの様に感じて「いわゆる闘病記」を残すつもり等サラサラなかったのだが、多くの同病患者が人工呼吸器装着後の生活に悲観して呼吸器の装着を拒み亡くなっている現状を憂い、本稿が現状打破の一助になればと思い、私なりの「ALS考」を綴ってみることにした。

 

中国新聞社から7月31日付の連載に「れいわ新選組の議席獲得について触れてくれ」と依頼され、当たり障りのない文章(笑)を寄せた。れいわ新選組の動向については日々報道されているが、月報の締め切りもあるので、初登院直前の7月末日の時点での私見を予定変更して述べてみたい。

 

舩後氏と私

7月21日の参議院選挙では山本太郎氏率いる「れいわ新選組」からALS患者の舩後靖彦氏(61)と脳性まひ患者の木村英子氏(54)が議席を獲得した。私はというと、ALS患者をやってる期間よりも歯医者やってる期間の方が長い。というよりも、職業は今でも歯医者のつもり(?)なので、当然、溝○顕正氏と比嘉な○み氏に票を投じた。同病患者の舩後氏の動向は気になりながらも、政党の方針には賛同しかねる。

 

山本太郎氏と舩後氏

 

舩後氏は1999年ALSを発症、2002年には人工呼吸器、胃瘻を装着している。身体の状態は現在の私とほぼ同じだ。2014年11月には松戸市議会議員選挙に立候補したものの落選している。人工呼吸器を装着しての議会選挙への立候補はおそらく日本初だったはずだ。舩後氏が市議会議員選に出馬した頃の私はALSの病状進行真っただ中にあり、階段を転げ落ちるように身体の機能を奪われていた。同氏が市議会議員選に出馬したのをFacebook経由で知り、2014年11月12日に「僕と同病の方が市議会議員選挙に立候補。こりゃあ負けとられん!頑張るゾー!と心を新たに」と、コメントしているが、人工呼吸器を装着する前だったのもあって、どこか遠くの国の出来事のように感じていた。直後の11月15~16日には人生最初で最後の誤嚥性肺炎を経験し生死をさまよっており、他人のことを思うだけの余裕がなかった。同氏のプロフィールによると「ローリングストーンズに憧れてエレキギターを手にし、熱中した」とあることから、もしかしたらROCKの爆音がALSの誘発因子かもしれないともコメントしている。というのもROCK好きの私は人が呆れるほどの爆音で音楽を聴くのを好むし、TOTOのベーシスト、マイク・ポーカロがALSを発症しているし、ヘビーメタルギタリストのジェイソン・ベッカーもALSと闘病中だからだ。多分違うだろうけど(笑)。

 

2014年市議会議員選挙の舩後氏

 

人工呼吸器を装着する前の私には装着後の暮らしを想像する上で憧れの存在であり、目標とすべき一人だった。また、以前よりFacebookを通じて同氏とは友人であり、メールでも何度かお話させていただいたこともある。そんな縁もあって、学生や同病患者向けの講義・講演では「人工呼吸器を装着してもこんなに生き生きと活躍するALS患者の例」として何度も紹介させていただいた。

 

バリアフリー化

同氏らの当選により国会側は大型車椅子の乗り入れ、介助者同伴での登壇などへの対策が急がれているという。段差を改修したり、議席の改修に70万円かかったとの報道があったが、これが安いか高いかの判断は読者の先生方に任せたい。それよりも問題だと感じたのが、介助者にかかる費用の問題だ。私も含めて、舩後氏らは重度訪問介護サービスを使用しており、現在のルールでは就労や通学する分にはサービスが受けられなくなる。まぁ厚生労働省の見解だと「働けない程の重度障害者を救うためのサービス」で「働けるのなら要らんでしょ?」ということだろう。これは障害者の社会進出への大きな足掛けとなっている。私も学校の講義など謝礼を受け取る場合には公費を使わずに実費を支払っている。歯科医師会の会務や患者会活動も広い意味で仕事だろうが、基本的に無給なので「セーフ」と自己判断している(笑)。分かりやすく言えば、家でテレビを観て過ごしている障害者には公費が使われ、働いたり学校に通学する障害者には公費が適用されない。これでは労働意欲が湧かないのも当然だろう。舩後氏らは参議院に対して介助者にかかる費用負担を求め、要求が通らない場合は「登院できません」と発言したという。それを受けて参議院では7月30日に慌てて「当面の間は参議院が介助者費用を負担します」と発表した。「悪法もまた法なり」と言うが、舩後氏らが負担すべきと思う。議員には年間2100万円の報酬が支払われる上に、月額100万円もの政治活動費が支払われる。「当面の間」負担すべきは舩後氏らで、改めて「悪法」改定の「法案提出」してほかった。舩後氏らには期待している。

 

議員バッヂを受け取る舩後氏ら

 

国会では2016年5月に衆議院厚生労働委員会に日本ALS協会副会長(会長を経て現在は理事)の岡部宏生氏(当時58才)を参考人として呼んでおきながら、「コミュニケーションに問題あり」として意見陳述を拒んだ過去がある。今回は世間の注目度合いに日和ったのか?ごく普通に私に参加する機会と仕事を与えてくれる、我らが広島県歯科医師会の方がバリアフリー化は進んでるぞ(笑)!

 

まとめ

「国民の代表が人工呼吸器と介助者が必要」、大いに結構。注目を浴びることで病名も広く知られるだろうし、治療法の解明も進むだろう。国会以外でのインフラ整備も進むはずだ。国民の注目は「人工呼吸器を装着した同氏にまっとうな議員活動が出来るのか?」だろう。報道を見る限り、あらかじめパソコンで綴った原稿を代読してもらっているようだ。受け答えは透明文字盤を目で追うのを介助者が読み取り、介助者が声を発する。発言に相当な時間を要する。即時にパソコンで発言できるようにすると、発言機会も増すだろう。2019年4月には埼玉県吉川市では透明文字盤で言葉を伝えるALS患者に対して訪問調査に来た市の職員が「時間稼ぎですか?」と、信じられない発言をした。前述の岡部宏生氏は口文字という手法で言葉を伝え、同じように介助者が発言する。そこが問題とされた。どうやら他人を介しての言葉では人の心は動かないようだ。舩後氏には誰もが納得する発言方法を実現してもらいたい。

 

登院する舩後氏ら

 

わが国には女性が半数、LGBTの人、病気を抱える人も沢山いる。難病患者に優しい社会は高齢者や乳幼児、マイノリティーにも優しいはずだ、舩後氏には政治思想の垣根を越えて、難病患者の社会進出の一助となる政策の実現のために暴れまわってほしい。

 

(つづく)

 

※本連載は歯科医向けの連載ですので専門用語を含みます。

<広歯月報No.772 令和元年9月号掲載・一部改編>