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leclairのブログ

生きてるといろんなことを考えますね。

ある出版社で「ぺたぺた」「世界地図」「さすがにそれは」の3つを効果的に使って文章を作りなさい
という課題でした。人間的暗さが表れてしまった。


内向的な自分を変えたい、と思って英子は旅をすることに決めたのは一年前。幼い頃から友達が少なく絵をかいてばかりいた。旅に出ると告げた時恋人の集平が「さすがにそれは極端なんじゃない?日本人相手でも話すの苦手な英ちゃんが、外国でなんかあったらどうすんの」といったのも無理はない。しかし、だからこそ、の旅だった。

そして今、英子は日本の自宅で世界地図を前に満足げに頷いていた。訪れた国に貼ることにした丸いシールは20枚ほど。うち15枚ほどは横に大きな付箋がついている。世界各国に友達を、と妄想して始めた旅だったが最初の五か国では友達ところか、写真を撮って下さい、とすらいえなかった。もうこれで帰ろうかと思った六か国目で、現地人らしき人に話しかけられた。詐欺の類かと身構えたが、かれの容貌は英子に懐かしさを感じさせ、あっという間に打ち解けた。その後も、行く先々で話しかけてくれる人がいて、どんな人と出会い、何をしゃべったのかを付箋にしるし、シールとともにぺたぺたと貼って行ったのだった。

この世界地図は、新しい私の象徴、そう思った英子はふと、押し入れのスケッチブックを思い出した。友達がおらず、絵を描くしかすることがなかった幼少期に書き溜めたスケッチブック。暗い時を思い出すのが嫌で、ずっと封印してきた。今の私なら見られる。そう思って引っ張り出した。しかし、ページをめくる英子の顔は次第に青ざめ、ついにスケッチブックを投げ出した。描かれている人の顔はいずれも見覚えのある顔ばかり、旅先で出会った彼らだった。彼ら?そういえば英子はだれの名前も聞いてない。彼らはちゃんと英子と呼んでくれたのに。英ちゃんはロック歌手のようで嫌だと集平にすらいえなかったのに、彼らには自然といえた。英子と呼んで、と。世界を旅しているつもりで自分の幼い日の妄想を引き連れていただけだったことに気づいて、英子は静かに世界地図を畳んだ。