かつてQunQunのライブに行くと必ず、純白のニッカボッカにオレンジ色の袖なし長半纏をまとったスキンヘッドのファンがいました。サーフィンで鍛えたという日焼けしたマッチョな体にタトゥーを入れ、苦み走った顔つきをしていましたので一見怖そうな雰囲気でしたが、ニコッと笑う顔になんとも言えない愛嬌があり、実際に話してみると意外とはにかみ屋で、人当たりがよく、なかなかチャーミングなお兄さんでした。
彼は「りなぽん」こと井上りなさんの大ファンでした。
かつてQunQunではプレミアム・チケットで入場しますとステージの上で出演メンバー全員と大判チェキを撮ってもらえたのですが、彼はいつもりなぽん以外のメンバーを外して井上さんとのツーショットにしており、そんな彼を他のメンバーたちは「またやってる…」と呆れつつも微笑ましく見守っていたものでした。
QunQunの野外ライブを見たことのある人は、よりいっそう彼のことが印象に残っているかも知れません。自ら「旗士」と名乗るとおり、「QunQun」とロゴの入った巨大な旗をステージ脇で振っている姿を目にしたことがあるはずです。観客の邪魔にならないように気を使ってわざわざステージの脇や後ろに回って旗振りをしていましたので、「あー、それじゃあせっかくのライブが見えないじゃん」といつもぼくは可笑しく思っていたものでした。
彼の名は「旗士☆けんたろう」といいまして、ある程度年季の入ったQunQunファンで彼のことを知らない人はいないだろうと思います。
ぼくがQunQunの正規公演を初めて観たのは2013年5月13日の中洲スターゲイトでした。その前の週の5月4日にキャナルシティ劇場で開催された「夢ライブ」の終演後物販で井上りなさんと目が合ってしまい、「チケット買って」と言われるままにはいはいと買った前売り券を握りしめて中洲のパピヨンビルに初めて足を運び、夜はショーパブとなる5Fの「スターゲイト」の入り口をくぐりながら、そのアダルトな雰囲気に「うわっ、なんかすごくヤバイところに来てしまったのではなかろうか」と結構ビビっていたのを思い出します。
その日はQunQunの第2回目の定期ライブでして、2期生の初ステージでもありました。5月中旬にしてはけっこう寒い日でして、それにもかかわらず会場内にガンガン冷房が効いていたのと、チェスカちゃんたち2期生がドリンクバーではしゃいでいたのを憶えています。
ぼくの記憶が確かなら、もうその頃からけんたろうさんはQunQunの現場にいたような気がします。うろ覚えですけど、2011年11月にデビューしたばかりの頃のイベント偶然に見てファンになったと聞いたような記憶がありますので、おそらくその頃はもう古参ファンのひとりだったのでしょう。
その後ぼくも時々QunQunの公演に通うようになったのですが、開場待ちの並び方やグッズ購入の仕方を教えてくれたのがけんたろうさんでした。スターゲイトの開場待ちはエレベータからちょっと離れたところにある階段に並ぶのでしたが、そんなこととは知らずにぼくがロビーの入口の前にぼけーっと突っ立っていると、けんたろうさんが「こっちこっち」と笑いながら手招きして教えてくれたのでした。
QunQunのライブに行くたびに彼がいますので、自然と顔見知りにはなりましたが、いつも簡単に挨拶するくらいの付き合いで、実はあまり長い話をしたことはありません。お互いシャイでしたからねー。
ライブ会場では、スターゲイトでもHEART BEATでもLIVEHOUSE CBでも彼はちょっと会場の後ろの方に控えていたような気がしますが、残念ながらぼくはライブ中にアイドルさんを観るのに精一杯ですので、他のヲタさんの行動に関しては確かなことは言えませんけど。
しかしライブが終了すると必ずりなぽんの物販列に並んでおり、何度もループし、ラストにチェキ券を何枚も使っていたのはよく覚えています。他のファンの迷惑にならないようにチェキ券を複数枚使うときは必ず最後にするという気配りに彼の性格がよく現れており、そんなところが皆から愛されていた理由だと思います。
井上りなさんが大野香澄さんたちと四色定理を結成すると、けんたろうさんの活動は当然そちらの現場がメインになっていきました。
忘れもしないのは、2016年の秋に四色定理のライブで一足早いハロウィン・パーティがありまして、会場に来たファンたちも皆んな思い思いの仮装をしていたんですね。ぼくも怪しげなアラブ人の格好をしたのですが、その時けんたろうさんの仮装が、なんとナメック星人だったのです。彼の容姿を思い描くことができる人なら分かると思いますが、もうホントにそっくりでして、ファンにもメンバーにも大受けで、当然のごとく最優秀仮装賞をりなぽんから贈呈されたのでした。
翌年2月に西新で行われた四色定理の最終ライブでも彼は集合チェキをりなぽんとのツーショットにしてしまい、他のメンバーたちから「最後くらい皆んなと撮ってよー」とからかわれたりしてていました。いつも明るい彼もその時はちょっと寂しそうにみえましたが、それからしばらくはアイドル現場で彼の姿を見かけることはなくなりました。
しかしその後、佐賀のピンキースカイというアイドルグループのライブ現場で元気に旗を振る彼の姿が見られるようになり、やがてQunQunの現場にも復帰して7期生の一宮萌華さんが新たなお気に入りとなったようでした。
まあそんなわけで、けんたろうさんはアイドルヲタクの鑑のような人だったわけですが、昨年11月初めに交通事故で急逝されたという訃報を人づてに聞きました。バイクに乗っていて、右折車に衝突されたとのことです。
けんたろうさんがQunQunの屋外イベントで振っていた自前の大きな旗はグループのロゴがオレンジの色の下地の上に書かれていました。オレンジを選んだのは、てっきりりなぽんカラーだからだと思っていましたが、実はその色が青空にもっとも映える色で、遠くからでもよく目立つ色だからというサーファーらしい理由だったそうです。まあしかし、彼の優しい目にはいつも澄み渡った青空の中に、井上りなさんの輝かしい姿がくっきりと映っていたのかも知れません。
R. I. P.