麝香草 榮 晶子
かつを菜の緑ぐんぐん膨らみぬ 鰹だらうか 勝男だらうか
青嵐すぎたる朝の土いきれに棘光らせて胡瓜転がる
いづこより香の漂へる麝香草蜜月の猫の反芻ながし
運動会果てし真昼間母親は子らを匿う食虫植物
植ゑ替へて五年目初花むすびたる紫陽花は額あぢさゐなりき
雛を捕らむとカラスきてゐる雌雄の蒿雀(あをじ)かん高く声あげてをり
日に近くコスモス戦げりその陰の露草のあを見つけてしまふ
夏珈琲優しい味ね乙女ひとりウェッジウッドのプレート響かす
この年の薔薇薔薇薔薇は咲きほこり細き影は尚ほそくわが立つ
赤茄子と黄瓜の間に挟まれてピーマンは六個実を付け終る