第1話 落ちた盗賊


一方、牙では目まぐるしく同心達が町中を調査していた。

「どうだ?手がかりはあったか?」

「いいや、微塵も・・そっちは?」

「同じだよ・・・」

「そうか・・これは本当にまずいなぁ・・・・」

同心達は皆焦っていた。なぜなら、平次のあの鬼のような顔を見たからである。もしここで盗賊を見つけられずに事が迷宮入りにでもしてしまったら

「長官に斬られるやもしれぬ・・・」

と思っているからである。皆、誰1人として収穫は無かった。岸辺は白石を通じて誰1人として収穫が無かった事を聞いた。

「そうか・・うむ、分かった。」

「あの、岸辺さん」

「うん?」

「この事を長官が聞いたら・・・」

「事実は事実。仕方あるまいよ・・」

そう言うと岸辺は平次の待つ居間へ足を運んだ。

「おお岸辺、皆からの報告は?」

「それが・・誰1人として何の収穫も無かったそうで・・・」

「ふうむ・・そうか。」

岸辺は覚悟した。次の瞬間には鬼のような声で怒声が響いてくるのを・・・

しかし、平次は穏やかな顔で

「分かった。よし、岸辺、皆のとこへ戻りこう伝えてくれ。寒い中見廻り御苦労。焦らずに調査してくれとな。」

岸辺は一瞬夢でも見ているかのような気持ちになった。普通この場合は怒り、怒鳴られると相場は決まっている。しかし、平次は怒鳴るどころか部下をねぎらったのだ。岸辺はしばらくの間、唖然となった。

「おい?これ、どうした岸辺?」

「え?あ、はい。たしかに伝えます。」

「うむ、頼んだぞ。」

岸辺は居間を後にすると一同を集め、平次の言葉を伝えた。一同、騒然となったのは言うまでもあるまい。

「まさかこれほどにできたお人だったとは・・・」

「俺は仕事にやりがいを感じたぞ・・・」

「あの人の元だったら、十分に気持ち良く働ける気がするよ。」

もちろん平次は部下の機嫌をとるためにあのような事を言ったのではない。平次の本心をそのまま言葉にしただけである。一同は平次の器の大きさに感動したのであった。