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「3兎」を追うソニーの勝算
ゲームの新戦略、敵はアップル、マイクロソフト(COLUMN)
 「今は敗者でも、未来は勝者になる」
 8月20日、ドイツのライプチヒで開かれたゲームのイベントで、ソニー・コンピュータエンタテインメント・ヨーロッパのデビッド・リーブス社長は、ボブ・ディランのヒット曲「時代は変わる」の歌詞を口ずさみながら記者会見を始めた。
 任天堂のゲーム機「Wii(ウィー)」や「ニンテンドーDS」に押されているソニーのゲーム事業が、いよいよ反撃を本格化する。その決意を「今に見ていろ」という思いがこもったディランの歌詞になぞらえた。
 巻き返し策はゲームの世界に限定されたものではない。ソニーのハワード・ストリンガー会長兼CEO(最高経営責任者)がライバル視する米国のアップルやマイクロソフトに対抗する戦略と一体となった“合わせ技”だ。
 まず「アイフォーン」と「アイポッド」で快走するアップルへの対抗策。
 リーブス社長は、10月から日米欧で発売する携帯型ゲーム機の「プレイステーション・ポータブル(PSP)」の新モデルを壇上で高々と掲げた。小型マイクを内蔵し、無料通話ソフトの「スカイプ」を搭載。無線LAN(構内情報通信網)経由でネット接続すれば、無料の「携帯電話」として使える。
 その地ならしをするために、PSPのネット接続機能を強化する。日本では無料の無線LAN接続ポイントを提供するフォン・ジャパンと提携し、全国約4万6000カ所で、PSPをネット接続できるようにした。
ゲーム機に音楽をダウンロード
 来年初めには、欧州で「プレイステーション3(PS3)」に無料で音楽ビデオをダウンロードできるサービスも開始する。アップルの音楽管理ソフト「アイチューンズ」のように、様々な音楽ビデオをライブラリーに保存することができる。
 ダウンロードした音楽ビデオはPSPに入れて持ち歩き、外出先で視聴できる。携帯電話と音楽プレーヤーの機能を備えるアイフォーンを意識した戦略であるのは疑いようがない。
 マイクロソフトが支配するパソコンの世界にも挑む。PS3の入力しやすさと記憶装置の容量をパソコン並みに向上させる。
 文字入力用の小型キーボードと、平面状の操作盤を指でなぞることでカーソルを動かせるタッチパッドを一体化させた「ワイヤレスキーパッド」を発売。キーボードは欧米で人気の携帯端末「ブラックベリー」に似た配列で、パソコンのように両手を使って入力できる。
 従来はPS3でネット接続しても、ゲームのコントローラーで文字を入力しなければならず、パソコン操作に慣れた人には、使い勝手が悪かった。この問題を克服することで、大画面テレビなどで家族や仲間と気軽にネットを楽しめる環境を整える。
 ゲームや動画を保存するHDD(ハードディスク駆動装置)の容量も従来の2倍の160ギガバイト(ギガは10億)に増やす。一般的なノートパソコン並みの容量だ。その結果、テレビ番組など映像のダウンロードが容易になる。欧州では9月に、PS3のHDDにデジタル放送を録画できるチューナー(受像機)も発売する。
 もっとも、ゲーム以外の“場外戦”でアップルやマイクロソフトを攻めても、主戦場であるゲームでライバルに見劣りすれば、元も子もない。
 「PS3やPSP向けの新しい機能やサービスは売り物の1つだが、あくまでゲームとしての魅力を最優先に打ち出して、年末商戦を戦う」。ソニー・コンピュータエンタテインメント・ヨーロッパのジム・ライアン共同COO(最高執行責任者)はこう言い切る。
 ライバルの任天堂に対するソニーの課題は、家族で楽しめるソフトの品揃えが不足していることだ。ヒット作がないわけではない。PS3向けではコナミの「メタルギアソリッド4」、PSP向けではカプコンの「モンスターハンター・ポータブル2ND G」が国内外で数百万本売れた。しかし両方ともアクションゲームで、購入者の中心は、10~30代の若い世代である。
 家族や仲間で遊べる簡単で楽しいゲームを強化する──。そんな姿勢をリーブス社長は鮮明にした。
 その一例が電子ペットの「EyePet(アイペット)」。PS3専用のカメラで利用者を撮影してテレビ画面内に映し出し、画面上でペットに触ったり話しかけたりして遊ぶ。まるで生きているかのように表情豊かに電子ペットが反応するのはユニークだ。かつてソニーが開発したペットロボット「AIBO(アイボ)」の電子版と言える。
 もう1つがロンドンの制作チームが開発した「リトルビッグプラネット」というゲームソフトだ。かわいらしいキャラクターが、「スーパーマリオ」のように2次元の画面内を飛んだりはねたりする。操作は簡単で、家族や仲間で楽しめる。カメラ機能で撮影した自分の顔を使って、独自のキャラクターを作ることも可能だ。
 さらにPS3向けのオンラインゲームでは、「バットマン」や「スーパーマン」といった子供に人気が高いキャラクターを使ったゲームも投入する。「(任天堂が強い)若い世代をもっと開拓するための様々なゲームを、オンラインで提供していく」とリーブス社長は強調する。
「両刃の剣」の側面も
 ただ、ゲームとそれ以外の機能やサービスを同時に追うソニーの戦略は、両刃の剣でもある。
 ゲーム事業の方向性を巡っては、現場とソニー本体との間で優先事項に違いがある。ソニー・コンピュータエンタテインメントの平井一夫社長は昨年から「ゲーム回帰」の方針を掲げ、事業の立て直しに取り組んできた。一方、ストリンガーCEOは、「ソニーユナイテッド(ソニーの団結)」を旗印にグループ力を結集し、映像や音楽などソフトとハードの相乗効果を実現することを期待する。
 今年4~6月期に黒字化し、世界でPS3やPSPが息を吹き返しつつあるゲーム事業にとって今は大事な局面だ。かつてソニーでは、様々な部門からネットやパソコンと連動した新製品が多数生まれたが、焦点が定まらずに苦しんだ経緯がある。それだけに「まずゲームに集中して成功させたい」という気持ちを、ゲーム部門が強く持つのは自然な流れだ。
 一方、ソニー本体にとっては、本業のゲームばかりをアピールすると、魅力的な新しい機能やサービスが埋もれてしまうという懸念がある。
 「口ばかりでなく、具体的な商品やサービスを見せてほしい」という批判をストリンガーCEOは受けてきた。
 自らが掲げるソニー製品同士をつなげて新しい価値を提供するネットワーク戦略において、これまで目に見える形で商品を投入できていなかったからだ。今回、ようやく具体策が出てきただけに、ゲーム以外の機能も前面に押し出したいのが本音である。
 今年11月には、ソニーの映画部門が制作する映画「007」の新作が世界で公開される。このタイミングに合わせて、携帯電話やPSPなどと連携させたキャンペーンを実施し、同時にソニー製品のネットワーク化もアピールする考えだ。
 さらに来年1月に米ラスベガスで開かれる国際家電見本市「CES」では、ストリンガーCEOが開幕の基調講演に立ち、ソニーの新たなネットワーク戦略を披露する予定だ。複数の「隠し玉」も準備していると見られる。
 各事業を「個」として成功させると同時に、グループの「団結」の成果も生まねばならない。ストリンガーCEO率いるソニーは、そんな難題に挑もうとしている。アップル、マイクロソフト、任天堂の「3兎」を追いかけるゲーム事業の成否は、その試金石となりそうだ。



与謝野氏、消費税上げ公約に 自民総裁選で
 与謝野馨経済財政担当相が10日告示の自民党総裁選の公約に、社会保障制度の維持を主な目的とした消費税率の引き上げを盛り込むことが6日、明らかになった。与謝野氏は消費税率を10%に上げ、社会保障の目的税にすることが持論。与謝野氏を支持する議員の1人は同日、記者団に「消費税を将来2ケタにすることを(公約に)入れる」と語った。
 公約のタイトルは「堂々たる政治」。総裁選出馬を正式表明する8日の記者会見で発表する。非正規雇用者の待遇改善など、構造改革で生じた格差対策も示す。



官邸主導の政策、立ち消えの懸念 行革・無駄ゼロ・社会保障…
 福田康夫首相の突然の退陣表明から約1週間が過ぎ、官邸主導の政策に「立ち消え」を懸念する声が広がっている。首相は有識者会議にはまめに顔を出しているが「船頭不在」の状況で、官僚による骨抜きやサボタージュが起きることに不安や戸惑いの声が漏れる。早期解散・総選挙がささやかれる状況では、打つ手がないのが実情だ。
 「行政の停滞があってはならない」。茂木敏充行政改革担当相は5日の国家公務員制度改革推進本部顧問会議の初会合で、政策立案を粛々と進めていくよう要請した。首相はあいさつし、数分間で退出した。



角界大麻疑惑 ファンが納得する対応を(9月7日付・読売社説)
 幕内力士が大麻の所持で逮捕されたばかりの相撲界が、またしても大麻疑惑で揺れている。陽性反応が出た以上、日本相撲協会には、毅然(きぜん)とした対応が求められている。
 大相撲のロシア人兄弟力士、露鵬(西前頭3枚目)と白露山(東十両6枚目)から、大麻の陽性反応が確認された。
 2人は大麻の吸引を全面的に否認している。だが、世界反ドーピング機関に公認された国内唯一の機関が精密検査を行った結果、陽性反応が出た事実は重い。
 相撲協会はかつてない危機に立たされたといえる。速やかに理事会を開き、処分や対応策を検討すべきである。
 白露山の師匠でもある北の湖理事長は、陽性反応が出ても、別の機関で調べ直してもらう考えを示している。
 これは、問題の引き延ばしと見られても仕方があるまい。
 北の湖理事長は、白露山を14日から始まる秋場所に出場させる意向も示している。しかし、ファンの土俵を見る目が厳しくなる中、疑惑の渦中にある力士の出場は許されることではない。
 同じロシア人力士の若ノ鵬が大麻所持容疑で逮捕され、協会から解雇されたばかりだ。今回の陽性反応は、露鵬と白露山が何らかの形で大麻にかかわっていたことを意味する。力士としての自覚のなさに、あきれるばかりだ。
 2人は、若ノ鵬と親交が深かったという。警視庁はすでに、露鵬、白露山から任意で事情聴取し、所属部屋と自宅を捜索したが、大麻の所持などに結びつく証拠は見つからなかった。
 陽性反応を受け、警視庁は、改めて2人から事情聴取する。徹底した捜査を望みたい。
 「力士教育は親方の責任」――。時津風部屋の力士が暴行され、死亡した事件の際、協会の責任を問われた北の湖理事長ら協会幹部は、こう言ってきた。
 だが、今回は、理事長自らの部屋の力士の問題である。理事長の進退問題に発展するのは避けられまい。ファンが納得する身の処し方が求められている。
 協会は、若ノ鵬以外に大麻汚染はないことを裏付けるため、十両以上の力士を対象に初めて抜き打ち検査を実施した。その結果、今回の疑惑が明るみに出ていた。
 協会は、十両より下位の力士も対象に加えた薬物検査を随時、実施すべきだ。薬物汚染の疑惑を払拭(ふっしょく)することが、信頼回復のスタートといえよう。


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