(5)遠友魂 第三卷第三号 ―昭和四年一月二十日発行 中二の時 一九二九

後藤忠氏の作品

 

五篇(日記から)                        たゞし

 

 

二つに割った西瓜を・・・

スプンで掬ひながら食べると

味が舌の先で秋をたゝへながら

咽喉へ飛んで行くよ     

  一九二八.九.七

 

 

  出たよ                                 

まんまるい

大きな 大きな

お月さまが

雲を割って・・・・・

あれ!

あれ!

向こふの丘に・・・・・。

一九二八.八.三○

 

 

かたみの寫眞に

ほゝえむと

ゑくぼが出耒た 友

ほゝえんで

ゑくぼを見せておくれよ

だが願ふても

かなはぬことなのだ

                 一九二八.十.十二

 

 

星がじっとしてゐる

凍えたのだらうか?

死んでしまったのか?

霜柱が立ってゐる路から

跫音が冬の間近さを傳へる

一九二八.十.三一

 

小菊を思ふたら                                                                       

涙がにじんだよ

花買ひの鋏のおとで

そっと窓から覗いたら

すっかり はさまれたよ

きれいに咲き揃った小菊が・・・。

涙がこぼれたよ

ながいひでりにも

怯げに咲いた

努力を思ふたら・・・・。

 

 

歌二詠

髙く澄み星の瞬きを嚴かに

十二日月 枝にさしけり

雨ごとに道悪くなり冬近し

石炭馬車けふもつゞけり

                   一九二八.十一.二