69.郵便はかき 壹銭五厘 本郷5.8.27消印 「人生の光明簡易保險」印

 宛先 札幌市南四東四 遠友夜學校 中等部四年山岳部御中

 差出人 七月二十七日 東京本郷お茶の水文化アパートメント 渡辺春江

 皆様もうお帰りでせう。なにか愉快な山の話しはありませんか?いつも楽しさうですね。手稲でしたら大分アゴを出した人がいたでせう(約1丈位)。一番のゴールは誰でせう・・・相変わらず暑いですね。そちらはもうたいしたこともないでせう。今、アパートメントに早川雪洲が耒てますよ。武林無想庵も、色々な面白い人たちが集まって耒ます。こゝまで書いて今定山渓からのお便りがつきました。察するところ金木さんが一番らしいですね。湯の中で谷川の流れを眺めていられる顔が思はれます。又すぐかきます。サヨウナラ

 

 

70.郵便はかき 壹銭五厘 秋田5.9.1消印 「緊縮は伸びる日本の旗じるし」印

 宛先 札幌市南四東四 遠友夜學校 中四御中

差出人 秋田市 若木礼

小生入院中は諸事御配慮を戴き有難く存じます。殊に中村、山下さんは度々御見舞い下され厚く感謝いたします。回虫の大患故、十一月末か若しくは今年一杯かかるも不知。

草々

                              

71.郵便はかき 壹銭五厘 本郷5.8.5消印「人生の光明簡易保險」印

  宛先 札幌市南四東四 遠友夜學校 中四の皆々様

  差出人 四日六時三十分 お茶の水にて はる江

 道中何事もなく帰って参りました。寄宿舎に落ちつきましたらさすがの私も疲れが出て耒ました。靜かに筆を持つ手がふるえるやうに思はれました。靜かな札幌から戻ってきましたので又しばらく車とタクシーの雑音になやまされる事でせう。先は安着の御通知まで 

 寮の先生方によろしく

 

 

72.茶封筒 切手なし

 宛先 中四諸君

差出人 信一路 S.TAKAKURA DEPARTMENT OF AGRICULTURAL ECONOMICS HOKKAIDO IMPERIAL UNIVERSITYの紙

 今朝・・只今喜美さんから手紙をもらって讀んだ。学校へ耒て直ぐね。・・午前の九時・・・オイ・・・そんなに皆してゆすぶるなよ・・・。一週間程前から、ちと馬力をかけすぎて一昨日から学校をいゝ加減にして家で寢ころんで居た。・・・所勞て奴で・・・。片っ端から本を讀む・・・小説・・・暫く此頃抑へつけてグウの音も出さなかったセンチメンタリズムがムクムク起きて耒やがったんだ。それに・・・昨夜は、家の女学生が僕の大嫌いなトロウメライと「吾子よ」のヴァイオリン曲を借りて耒やがったんだ。すっかり夜學校に居た時の様なセンチメンタリストになっちまってるんだよ。

 夜学校はご無沙汰して居る。・・・何時も相濟まん次第だと思って居ます。が・・・夜学校は「手前見たいな奴は小理屈計りこねるから用はねえや・・・」と言ふであらふ、今日さ忘れられない所だ。・・それを・・・より広い世界のために忘れっちまはうと努力して居る所へ、只でも忘れられない君達から・・・まるで四年前とちっとも変わらない言葉を・・・元気さを・・・受けると涙が出て仕方がない。皆んな達者で結構だね。・・・僕は相変わらずアイヌ一点張りだ。朝から晩まで。起きてから寢るまで。・・・アイヌ・・・アイヌ・・・アイヌ・・・馬鹿みたいな生活だよ。

 夜学校に通った頃・・・殊に君達を持った頃が羨ましいなあ・・・。何しろ未だ学校に通ひ得る君達が羨ましいよ。海水浴だってね。・・・「行きたい・・・」と思って居る。毎年元気がなくなってもね。渡辺が帰って耒るって・・・。けれども僅か一週間位きゃ居ないんだって・・・。渡辺も僕の上京した頃から樂しんで居た。今日このごろの夢は札幌に計り通って居るだろうよ。 帰って耒たら皆で歡迎してやりたいな・・・。皆で集まって・・・。

渡辺の邪魔にならない様に・・・。

 「討論会」勿論行くとも。萬障繰合せてだ。然老武者が陣頭に立つ時、・・・君達が中一や中二に圧へられて居たんじゃ-否だぜ・・・。武田にも何時も言っておいた事だが、リンコルン会の「討論法」が正式ではない。議事進行法は皆が一度は憶えて居ていい方法だ。

必ず役に立つ。何時も実地に説明して上げたいと思って居るが出耒ないで居る。

 中村・・・気にかけるな・・・この間会った時病気だとか言って居たから山崎に冗談半分「生きて居るか」と耒たんだ。達者で結構。皮肉ぢゃ-ないんだよ。色々心配もいやな事もあるだろう。でもそれが我慢が出耒、辛棒が出耒るのは若い内だ。がん張って御覽・・。

若し自分に背負ひ切れない事があったら・・・及ばず乍ら僕達がついて居る。必ず擔える庁棒なんかおいてあげるから。室に殆ど居なくて気の毒、・・だけど暇があったらまた御出。顔さえ見れば安心が出耒るんだ。では又十五日を樂しみにしやう。皆の好意を深く深く感謝すると共に君らの健康を祈って止まない。雑な言葉と乱筆は御容赦   新一郎                          

 中等部四年の諸君

 

 

73.POST CARD 絵葉書 本郷5.9.23消印 「人生の光明簡易保險」印

  宛先 札幌市東四南四 遠友夜學校 中等部四年の皆々様

  差出人 廿二日 渡辺春江

 裏 日本美術院第十七回展覧会出品 「緑野の道」清川草林氏筆

 皆様 今はいかがお過ごしでいられますか。そろそろ寒くなってまいりましたので皆様もいろいろと事業でおいそがしいことと存じます。表記の絵どこかに似て居りませう?私何となく藻岩に行く路のところに良く似ていると思ひます。もし遠足にでもいらしたらよくあの辺を御らん下さいまし。横にそれて競馬場にいく所御座いませう。あの路あたりに・・・どしゃぶりの観音堂を思ひ出しますね。二年の秋頃でしたかしら

 

 

74.茶封筒 参銭切手 札幌5.9.2消印

  宛先 札幌市南四条東四丁目 遠友夜學校内 中等部四年御一同様

  差出人 市内北十二条東三丁目 天使病院内 寺田チヱ 九月一日

 級の皆様お変わりございませんか。私は相変わらず元気で暮らして居ります。長い長い夏休みも終り、また九月になって皆様が樂しく御勉強なさると思ひますと本当に羨ましく思ひます。これも仕方のない事ですけれど、足掛け五年と云ふ長い年月いろいろ御世話下さいました先生始め皆々様に何と御礼申し上げてよろしいか分りません。唯々有難く心で皆様に御礼申し上げます。 

 いつもいつも皆様の為には何も致しませんで、やっくわいに計りなりました。私をお許しください。月日の立つのは早いもので私が此處へ耒ましてからも一週間余は夢の様に過ごして了ひました。まだなれない私には毎日淋しく送って居ります。時々寫眞を出して見てはいろいろ樂しかった遠い夢を思ひ出してなつかしい皆様や先生方を思ひます。もう一度皆様方と一緒に学び遊びたいと思ひます。どうして今まで一生懸命勉強しなかったんだろうと自分で自分が憎らしいと思ひます。でもこれからは一生懸命に働き勉強しようと思って居りますけれどどうだか分からないものです。九月秋風の吹く九月になりましたね。

御体御大切に願ひます。先生方によろしく申して下さい。                                                    

 中等部四年の皆様方へ                 Terata Chie(筆記体)

 

75.茶封筒 壹銭五厘切手二枚 5.9.22消印 鉛筆書き

 宛先 札幌市南四条東四丁目 遠友夜學校内 中等部四年諸君へ

 差出人 空知郡清眞布市街地 旅館 谷口信吾

親愛なる諸君 諸君は常(いつも)の元気と熱心さと擧げて懐かしい母校の門をくぐられて居る事でしょう。それに反し私は如何に業務の為とは云へ熱心なる諸君と御別れして居る事は実に諸君に對して無責任であり、私自身も大事な二学期に直面して残念であります。私は十九日に午後二時十分発の汽車で岩見沢を発って室蘭線の清眞布驛に下車しました。当地は今、空知畜産品評会で空前の賑やかさであります。驛頭に飾られて大歡迎門それに續いて全市街は赤白の幕にいろどられ、会場に至れば萬国旗高く秋天にひるがへり、地には全空知よりはや集めたる六十余頭の駿馬、吾劣らずといななく壯觀、正に天髙く馬肥ゆるの候に事実をまのあたりにみました。人出も近所近在から非常なもので、その人出を利用して私の商賣であります。でも人出の割合には成績は大したものではありません。

 此処は廿四日迄五日間居りそれから次の驛栗山市街で廿五、廿六の二日間、それで本月の出張も一先づと云所で、廿七日は歸札の予定ですから、たしか登校も出耒ると思ます。後藤君と堂ノ下君とに特にお願いします。新聞廣告(但し記事)の方をよろしく御願致します。では又御便りします。左様奈良                谷口信吾より

 皆様へ

 

76.白封筒 参銭切手 秋田5.9.23消印 墨書

 宛先 札幌市南四東四 遠友夜學校 中等部四年御一同殿

 差出人 秋田市土平長町 若木禮

 寄席書きサンQ小生径過良好なり安心下さい。然し、余後が長引く故十一月にならねば帰参出耒ぬと思ふて居ります。御返事代わりに諸君の御学を一寸書いて見ます。頭が疲れて居るからうまく行かぬかも知れんが。

枡谷君 幸三郎氏と同病ゆえ特別の感有り。無口。

地濃君、吉田君厂史の時間にチョコレートを食ふのは良くない。

笹木君、 運動会の時面白くもない役をして居たね。ヱンの下の力もちは尊い役だ。

堂下君、ホームスヰーとhome、肩がいかってえらそうだ。

大坊君、着實な感じ。秋田県人でも僕の様な男も君の様な男も居る。

後藤君、彼スポーツを好む。

横山君、よく唇をかむ癖あり。

中村君、才気煥発。

山下さん、面白い性分だと小林先生が云ふて居た。僕もそう思ふ。

山崎君、軍人は中々悪くないぞ。

中村君 大きい声を出すんだ、走り方に特徴あり。

馬鹿げた事を書いたと思ふて讀んでくれ。僕の授業は代はって貰わねばならぬ、帰學しても、親愛なる中四諸君に毎晩お目にかかれぬと思ふ。貨幣の所だけでも小安君からでも聞いた方が宜しいと考へます。字の下手なのは左様御承知故斷はらなくても良いだけ気樂だ。 

                                    草々  中四御一同殿                             若木禮