水のない岩の川・なべくら渓 【山添村 月ヶ瀬村神野山自然公園】 ―5―
ひといきついた後、二人は、もときた道を下ろうとしました。
私は、ニッコリ笑みをつくって「こっちだよ」と上へと向かいます。
従い二人は方向転換し、頂上へと足をむけます。
しかし、疲れのせいか、山頂を目指す意義を失っている様子でした。
心が定まれば、兄はスイスイと先へ進みます。
後ろで妹は、ついてこようとせず、うつむいてしまいます。
振り返り、黙って手を差し伸べます。
ややしてから、顔をあげ歩きだす。
手をつなぎ二人で登り道を踏みだす。
歩くということを趣味としているのは、私の都合です。
ことに山道や森の中、歩くことは心身の疲れを癒します。
体の代謝と回復力が抜群の子供たちには、その意味はまだ理解しかねるでしょう。
妹は、ペラペラと早口で自分のことをまくしたてる。
話している意図がつかめなくてもフンフンと相槌を返す。
板張りの道が途切れる。
やがてなべくら渓の特有の岩の川が途切れます。
岩の川は、草木の中へ潜り込んでしまいます。
急な傾斜の土の道が、上へうえへと続く。
ちいさな歩みに合わせて一歩いっぽ、段を超える。
妹の自分語りが、不満に変わっていきます。
「疲れたよ。喉乾いたよ・・・」
「うん。でも、もう少しだよ。がんばれ」
と立ち止まって笑顔をみせる。
不承不承、歩きだす。
ふと道端にクワガタの胸から上だけが、仰向けで転がっているのが目につきます。
死骸です。なぜか残った一本の前脚がおいでおいでするかのように動いています。
足をとめ見てみます。
たくさんの蟻がクワガタの死骸に群がり、解体し、運び出そうとしているのです。
ふと考えが頭の中に巡ります。
・・・この森には、クワガタが住んでいるんだな。
「お父さん、カブトムチだよ!カブトムチ!」
妹が声をあげます。
「いや、クワガタだよ」
「クワガタ?」
一昨年、うちで飼っていたカブトムシと混同してしまったようです。
また歩き出します。
さらに斜面は急になります。
兄はすっかり先にいってしまいました。
そろそろ山頂ですが、登り道で視界が遮られ、ますます妹は辛そうです。
不満を漏らしそうになると、鼻歌のように「がんばれ、がんばれ」とくりかえします。
狭い段の道にさしかかったとき、頭の上から声がしました。
話し声です。
草むらの向こうから、初老の男と妻らしき女性、そして日傘をさした女性の三人がおりてきます。
「こんにちは」と私が声をかけると、
大きな弾むような声で「こんにちは」と娘もならいます。
一行から挨拶が返されます。
「やぁ、小さいのに、がんばってるね。」
「もう少しだからがんばってね。」
声をかけられ俄然妹は元気になります。
段を登り切ると、だしぬけに視界がひらけ、道が穏やかになります。
山頂です。
「あ、着いたの?」
「もう少しだよ。」
先に兄が待っています。妹は手を放し、駆けよります。
ズンズン進むと、展望台が見えてきました。
「着いたねぇ。」
展望台にのぼり、写真をとります。
荷物を下ろし、がんばったなと、二人の頭をゴシゴシなでてやります。
兄は相変わらず、なんでこんなところに連れてこられたのか理解しかねている様子でした。
妹は、単純にほめられたことに歓喜しています。
くるくると喜怒哀楽まじった、わずか30分程度の道のりでした。
つづく
私は、ニッコリ笑みをつくって「こっちだよ」と上へと向かいます。
従い二人は方向転換し、頂上へと足をむけます。
しかし、疲れのせいか、山頂を目指す意義を失っている様子でした。
心が定まれば、兄はスイスイと先へ進みます。
後ろで妹は、ついてこようとせず、うつむいてしまいます。
振り返り、黙って手を差し伸べます。
ややしてから、顔をあげ歩きだす。
手をつなぎ二人で登り道を踏みだす。
歩くということを趣味としているのは、私の都合です。
ことに山道や森の中、歩くことは心身の疲れを癒します。
体の代謝と回復力が抜群の子供たちには、その意味はまだ理解しかねるでしょう。
妹は、ペラペラと早口で自分のことをまくしたてる。
話している意図がつかめなくてもフンフンと相槌を返す。
板張りの道が途切れる。
やがてなべくら渓の特有の岩の川が途切れます。
岩の川は、草木の中へ潜り込んでしまいます。
急な傾斜の土の道が、上へうえへと続く。
ちいさな歩みに合わせて一歩いっぽ、段を超える。
妹の自分語りが、不満に変わっていきます。
「疲れたよ。喉乾いたよ・・・」
「うん。でも、もう少しだよ。がんばれ」
と立ち止まって笑顔をみせる。
不承不承、歩きだす。
ふと道端にクワガタの胸から上だけが、仰向けで転がっているのが目につきます。
死骸です。なぜか残った一本の前脚がおいでおいでするかのように動いています。
足をとめ見てみます。
たくさんの蟻がクワガタの死骸に群がり、解体し、運び出そうとしているのです。
ふと考えが頭の中に巡ります。
・・・この森には、クワガタが住んでいるんだな。
「お父さん、カブトムチだよ!カブトムチ!」
妹が声をあげます。
「いや、クワガタだよ」
「クワガタ?」
一昨年、うちで飼っていたカブトムシと混同してしまったようです。
また歩き出します。
さらに斜面は急になります。
兄はすっかり先にいってしまいました。
そろそろ山頂ですが、登り道で視界が遮られ、ますます妹は辛そうです。
不満を漏らしそうになると、鼻歌のように「がんばれ、がんばれ」とくりかえします。
狭い段の道にさしかかったとき、頭の上から声がしました。
話し声です。
草むらの向こうから、初老の男と妻らしき女性、そして日傘をさした女性の三人がおりてきます。
「こんにちは」と私が声をかけると、
大きな弾むような声で「こんにちは」と娘もならいます。
一行から挨拶が返されます。
「やぁ、小さいのに、がんばってるね。」
「もう少しだからがんばってね。」
声をかけられ俄然妹は元気になります。
段を登り切ると、だしぬけに視界がひらけ、道が穏やかになります。
山頂です。
「あ、着いたの?」
「もう少しだよ。」
先に兄が待っています。妹は手を放し、駆けよります。
ズンズン進むと、展望台が見えてきました。
「着いたねぇ。」
展望台にのぼり、写真をとります。
荷物を下ろし、がんばったなと、二人の頭をゴシゴシなでてやります。
兄は相変わらず、なんでこんなところに連れてこられたのか理解しかねている様子でした。
妹は、単純にほめられたことに歓喜しています。
くるくると喜怒哀楽まじった、わずか30分程度の道のりでした。
つづく





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