穴の中から ― 前篇 ― ~ 「龍になった皇子 大津皇子物語」 【葛城のむかしばなし】より
人里離れたある山の麓に二人の男が岩穴を見張っていました。
日が沈んだ頃、二人は岩穴の前で焚火をしました。
一人が聞きました。
「なぁ、何がこの中にいるんじゃ?」
「ああ、うわさでは謀反をたくらんで殺された大津皇子(おおつのみこ)さまじゃとよ」
「大津皇子さまだと?皇子さまは、わしらのような者にもわけへだてなく声をかけてくださる優しいお方だ。あんな立派なお方が、謀反など起こすはずがない。」
「お世継ぎで他の高貴なお方に罠にはめられたといううわさじゃ・・・むごいものじゃの」
「それでこんなところへ亡きがらを放り出したというわけか。これでは皇子さまは黄泉の国へ旅立つこともできんな」
そのうち男たちは居眠りをはじめました。
ウー、ウー、ウー・・・
岩穴の奥から不気味な声が聞こえ、ふたちはびくりと起き上がりました。
二人は一心に祈りつづけ、やがて朝日がのぼり二人は胸をなでおろしました。
さて、その晩も岩穴から声がきこえました。
前の晩より物悲しいうめき声です。
来る夜も来る夜もうめき声は続き、その声は大きくなっていきました。
そして七日目の晩のことでした。
あの声がぴたりとやんだのです。
二人の男は不思議に思いました。
「どうしたことじゃ?」
「ようやく黄泉の国へ旅立たれたのかもしれん。どうれ、ひとつ確かめてみよう」
一人は引きとめるのも聞かず、岩穴へとはいっていきました。
ひんやりした穴の中は真っ暗です。
ごつごつした岩の道が続きます。
やがてなまぐさい臭いがしてきました。
突然、おおきな山の様なものがぼんやり見えてきました。
あたり一面に不気味な気配が漂っています。
行き止まりかなと思った途端、ぐらりとその山が動きました。
金色に光る大きな目が、こちらをにらみつけています。
口は大きく耳まで裂けて、てらてらと光るうろこが体中をおおっています。
山と思われた影は巨大な龍だったのです。
男は悲鳴をあげて一目散に岩穴を逃げ出しました。
「穴の中から ― 後編 ― 」 へ続きます。
ランキングに参加しています。
ポチッとよろしくお願いします。
↓↓↓↓↓
日が沈んだ頃、二人は岩穴の前で焚火をしました。
一人が聞きました。
「なぁ、何がこの中にいるんじゃ?」
「ああ、うわさでは謀反をたくらんで殺された大津皇子(おおつのみこ)さまじゃとよ」
「大津皇子さまだと?皇子さまは、わしらのような者にもわけへだてなく声をかけてくださる優しいお方だ。あんな立派なお方が、謀反など起こすはずがない。」
「お世継ぎで他の高貴なお方に罠にはめられたといううわさじゃ・・・むごいものじゃの」
「それでこんなところへ亡きがらを放り出したというわけか。これでは皇子さまは黄泉の国へ旅立つこともできんな」
そのうち男たちは居眠りをはじめました。
ウー、ウー、ウー・・・
岩穴の奥から不気味な声が聞こえ、ふたちはびくりと起き上がりました。
二人は一心に祈りつづけ、やがて朝日がのぼり二人は胸をなでおろしました。
さて、その晩も岩穴から声がきこえました。
前の晩より物悲しいうめき声です。
来る夜も来る夜もうめき声は続き、その声は大きくなっていきました。
そして七日目の晩のことでした。
あの声がぴたりとやんだのです。
二人の男は不思議に思いました。
「どうしたことじゃ?」
「ようやく黄泉の国へ旅立たれたのかもしれん。どうれ、ひとつ確かめてみよう」
一人は引きとめるのも聞かず、岩穴へとはいっていきました。
ひんやりした穴の中は真っ暗です。
ごつごつした岩の道が続きます。
やがてなまぐさい臭いがしてきました。
突然、おおきな山の様なものがぼんやり見えてきました。
あたり一面に不気味な気配が漂っています。
行き止まりかなと思った途端、ぐらりとその山が動きました。
金色に光る大きな目が、こちらをにらみつけています。
口は大きく耳まで裂けて、てらてらと光るうろこが体中をおおっています。
山と思われた影は巨大な龍だったのです。
男は悲鳴をあげて一目散に岩穴を逃げ出しました。
「穴の中から ― 後編 ― 」 へ続きます。
ポチッとよろしくお願いします。
↓↓↓↓↓
- 天翔る白日―小説 大津皇子 (中公文庫)/黒岩 重吾
- ¥1,150
- Amazon.co.jp
- 大津皇子怨念の歌 柿本人麻呂を探して/井上 智幸
- ¥1,260
- Amazon.co.jp