障害持つトラ題材に道徳教育…釧路市動物園長
四肢に障害を持って生まれた釧路市動物園のアムールトラの「タイガ」と「ココア」。2頭の生きる姿を題材にした同園園長の山口良雄さん(58)の講演が各地で共感を呼び、今年に入ってから講演回数は約50回に上った。
仮死状態で生まれながら、次第に飼育員の手に伝わる体のぬくもり、障害を持ちながら懸命に歩く姿など、「命の輝き」を伝える講演は道徳教育として道内外で脚光をあびている。
2頭の母親は育児を放棄したため、同園は人工保育に挑戦した。障害を持った動物の一般公開の是非が園内外で議論されたが、公開されると、そのたくましい姿に応援の声が集まった。
山口さんは、2頭の誕生からタイガの死、懸命に生きるココアの今などについて、講演で話す。曲がった足を少しでも治そうと、飼育員はマッサージを試みたが、痛さのあまり2頭の悲鳴は遠くまで響いた。2008年6月、2頭はほぼ同時に、交差して動かなかった自分の後ろ足を、自力でほどき、何度も転びながら立ち上がった。
「立てないと勝手に決めつけ、余命幾ばくもないと思っていた。これは奇跡じゃない。動物たちが懸命に生きようとする姿なんだ」。山口さんは力を込める。
講演の対象は高齢者から小学生まで幅広い。講演を聞いた岐阜県の中学生は、「タイガ、ココアは懸命に生きようとしている。ぼくは『死ね』という言葉は二度と使わないことにした」という感想を寄せた。
山口さんはまた、道の「子どもの心に響く道徳教育推進事業」の講師として、留萌、胆振、十勝、釧路、根室の小中学校で道徳の授業も行っている。山口さんは「見せ物や擬人化ではなく、2頭のストレートな姿で命の大切さを伝えていきたい」と話している。
釧路市立春採中学校では、山口さんの講演に感銘を受けた同校の奈良俊則校長の発案で、タイガとココアを題材に「命」や「愛」を考える道徳の授業を実施し、生徒会も、ココアの飼育を支援する募金活動を行った。
釧路市では来年、全道から教育関係者を集めた道徳教育研究会が開かれることになっており、同校はタイガ、ココアを題材にした道徳教育を発表する予定だ。