とわは夢を見ていた。
金火竜と銀火竜が、揃ってこちらを見つめている。
何もない、明るい空間。存在するのは、とわと夫婦だけ。
傷一つ無い、神々しい金銀の体躯。
ーーーあの時、傷つけてごめんなさい……怪我、もう良いの?
問いかけたとわに、夫婦はグォ、と鳴いた。
そして、揃って踵を返し、ゆっくりと光射す方へ去って行く。
ーーーわたくしを赦してくれるの?
金火竜が、尻尾で何かを放って寄越した。
とわは拾い上げる。
手の中で燃えるように揺らめく、一対の炎。
再び顔を上げると、もう、金火竜、銀火竜の姿は無かった………。
「安心して、とわ。終わったわ。」
つかさの声が、聞こえた気がした……。
ギルドからの迎えが来て、ガロンはジョウジを、ナイトはとわを担いでネコタクに乗り込む。
未だ目覚めない2人。
つかさと執事も姿を消した。
帰還の途中、とわが目を開けた。
無言でナイト、ガロンとハグを交わす。
……生きていて良かった。他に何も言葉は要らない。
とわはその後、ずっとジョウジに張り付いていた。
火山に抱かれた村。
稀少リオ夫婦の狩猟から辛くも戻ってきた一行。
今回の件を、村の代表とギルドに報告する役目をシオンに任せ、重傷のジョウジをシオンの店に運び込む。
りんねが医者を呼びに行っている間、ナイトととわはジョウジの身体から防具を剥ぎ取ると、傷の状態を調べていった。
ここに連れてくるまでに、ありったけの回復薬は飲ませた。
「おい、オッサンの傷はどうなんだ?」
横たわったガロンが、首だけこちらに向けて訊いてくる。
「……………。」
「……………。」
黙り込む2人。
「まさか…。」
と、そこに医者を連れて、りんねが戻ってきた。
「おい!早く診てくれよ!」
年配の小柄な医者に噛みつきそうな勢いのガロン。
「ガロン!静かにして!」
とわはガロンを一喝した。
「う…。」
その間も医者はりんねを助手にして、ジョウジの身体に刻まれた傷を一つずつ治療していく。
稀少リオ夫婦の狩猟を終えて数日が過ぎた。
かなり深い傷のガロン、火傷を負ったナイトも少しずつだが回復して、りんねとジェット君が栄養たっぷりの食事を与えている。
ナイトは日頃の鍛錬の賜物か、驚くほど回復が早かった。
ガロンもそもそもが頑丈なのか、野生児なのか治癒が早く、もう自力でベッドの上で食事ができるようになっていた。
とわも、身体はあちこち痛むものの、動き回れる状態だ。
しかし…
ジョウジだけは、未だに意識を回復させる事なくベッドに横たわっていた。
ーー爺や……わたくしのためにこんな目に…。
兄様もわたくしも、あなたには助けられてばかりだわ…。
とわは昏睡するジョウジの手を握り、冷たいその手を両手で包み自分の頬に寄せた。
――爺や、今度はわたくしがあなたを助ける番よ。
そして、ベッドサイドの小さなテーブルの上に置いた薬草類を薬研にかけると調合を始めた。
シオン、ドンドルマの狂竜ウイルス研究所の所長ならびに助手、ギルドマスター、シナト村の大僧正。そしてズイム。
植物、薬の類に精通していそうな人々に、とわは助けを求める事にした。
手紙を飛ばし、書物を繰り、聞いたことをしっかりまとめる。
自身も寝る間を惜しんで調合実験し、ジョウジのための液体栄養剤を研究していた。
ある晩も、シオンの助言のもと作成した栄養剤を飲ませ、ジョウジの側にいたとわ。
その手を握ってベッドに頭を預けているうちに、急な眠気に襲われて、彼女はその体勢のまま眠ってしまった。
月明かりを浴びて、窓からするりと影が入ってくる。
長身の影は優雅な仕草で、テーブルの上に小さな瓶を置く。
瓶の下にはメモらしき紙片が挟まっていた。
「我が主からです。本当はあなたたちに介入すべきでは無いのですが…。」
そうして、影はフッと消えていった。
「わたくし…いつの間に寝てしまったのかしら?」
目を覚ましたとわは、まだ薄暗い窓の外を見た。
半月が、ほんのり明るくなって来た空に浮かんでいる。
立ち上がってジョウジの顔を覗き、テーブルの上に置いてある小瓶とメモに気づいた。
「何かしら?」
メモを読んだとわの顔がみるみる明るくなっていく。
ーーー師匠……!
とわは飛びつくように小瓶を手にすると、栓を抜き、震える手でジョウジの口に流し込む。
ーーー爺や、どうか、どうか、目を覚まして…!お願いよ……。
じっととわが見守る中、不思議なことに、ジョウジの顔に血の気が戻って来た。
握り締めた手に、温もりが戻ってくる。
とわは泣いた。
心の底から、つかさと、執事の男に感謝した。
この世の総てに、祈りを捧げたくなった。
ぎゅっと握った手に力が入る。
「う……。お、じょう……様?」
目の前に、涙と鼻水でぐちゃぐちゃのとわお嬢様の顔がある。
すごい顔で自分の手を握って、覗き込んでいる。
ーーー自分は……助かったのか…?いや、それより他の皆は?!
動かそうと思ったが、全く力が入らない。
泣いているお嬢様の髪を撫でてやりたいが、この手は鉛のようだ。
「じ…爺や……!」
お嬢様が飛びついてきた。
ーーーああ、温かい……。これが命の温かさか……。
万感の思い。不覚にも、涙が出てきた。
「わあああああああーーーーーん!!!」
まだ自分の物で無いような手を、どうにか持ち上げる。
そして泣きじゃくるお嬢様の、紫色の髪にそっと下ろす。
今現在の、力の加減がわからない。
「ご心配をかけましたな、申し訳ありませぬ。」
ーーーああ、自分は生きているのだ………。
とわの泣き声を聞いて、シオン達も次々に部屋に駆けつける。
バターーン!
勢いよくドアが開き、数人が転がり込んで来た。
つまずいて転んだガロンの上を、ナイトが踏み越えて来る。
「ジョウジ!」
「オッサン!痛ぇ!ゴルァァ」
「ジョウジ殿、気がつかれたのか?!」
寝巻き姿のシオン。
早朝鍛錬でもしていたのか、ユクモ道着と袴姿のナイト。
目の下に隈くっきり、髪もボサボサのガロン。
ちょっと遅れて、温かい飲み物を携えた、りんね。
しがみつくとわと、困ったようになだめるジョウジの姿を確認し、ガロンは座り込んだ。
「あんまり心配かけんなよ、オッサン……。」
シオンが怪我の具合を問う。りんねの運んできた薬草スープを、ジョウジに差し出す。
ナイトはテーブルの薬瓶に気がついた。なるほどと小さく頷く。
窓の外から、半月が見守っている。
つづく
とわ&GG共著