金火竜に向かって駆け出す、一対の男女。
つかさの両手に握られた刀身。
マグマの照り返しを受け赤く煌めいている。
ナイトはハッとした。
ーーーあれは!超硬質ブレード…!
グラン・ミラオスを倒していることが前提の、幻とまで言われた凶剣。
ナイトの知る限り、ジエン・モーラン亜種も複数回倒さねばならず、古龍の血も大量に必要だと聞く。
そんな武器を、なぜドレス姿の女性がーーー?
ゴァァァァーーーーーッ!
金火竜が威嚇の叫び声を上げ、身構えた。
「「………………。」」
2人は素早く視線を交わすとぱっと方向を違え、2方向から攻め上がる。
グゥゥ…。
金火竜がどちらを相手にするべきか迷っている隙を突いて、つかさが金火竜に斬りかかっていった。
「はっ!」
ガロンとナイトの大剣を弾き返した甲殻だったが、超硬質ブレードは弾かれずにダメージを与える。斬れ味の補正も最大まで入っているのか。
ギャァァァッ!
たまらず叫ぶ金火竜。
「………。」
金火竜の正面に回り込む黒髪の男。燕尾服の裾がひらめく。
次の瞬間、その顔面に鋭い蹴りを放った!
ガァッ!
驚くべき事に、その一撃を受けた金火竜が目眩を起こしている。
「おい!なんだアイツは!」
驚くガロン。
「………………。」
男の動きを、瞬きもせず凝視するナイト。
ーーーあの身のこなし…あの男、一体何者だ?
ナイトは思わず立ち上がっていた。
目眩から回復した金火竜は、目の前の男に噛みつこうと首を伸ばす。
タンッ!
地面を蹴る靴の音だけを残し、男は、金火竜の背中に降り立っていた。
ガァ?
獲物を見失った金火竜。
だが、男が背中に乗ったのを感じるとその場で激しく動き出す。
「………。」
激しく動き回る金火竜の背中に立つ男。
まるで足に磁石でもついているかの様にびくともしない。
そして、どこから取り出したのか、飾りの付いた細身のナイフを金火竜の頭部に、何度も突き立てる。
ガァッ!ガァガァッ!!
黄金の女王は、何とかして男を振り落とそうと暴れる。
しかし、男の恐ろしく端正な顔は実に涼やかで。
バキィィィン。
金火竜の頭部を覆っていた甲殻が完全に破壊される。
ギャァァッ!
あまりの激痛に金火竜の身体が傾き始めた。
男は捲き込まれない様に背中から飛び降り、後方に音もなく着地する。
ドサァッ……、金火竜は遂に倒れこんだ。
つかさは倒れた金火竜の前で、両手を交差させた。
「はぁぁぁーーーーーっ!」
[鬼人化]――双剣使いの奥義だ。手にした剣が、紅く揺らめく。
だが、さらに。
そっとつかさの背後に立ち、その両手を上から包む白い手袋。
共に剣を握り、2人は双剣を打ち鳴らす。
キィィィンーーー……。
ぼやけるとわの目には、瞬間、つかさと、背後に立つ男の何かが混ざり合ったように見えた。
すっと双剣を左右に降り下ろすと、つかさの身体は闘気を纏っていた。
男の目がすっと細められる。
その手の剣を見て、ナイトはまたも驚いた。
蒼い刃身。
「あれは……蒼穹双刃…か?」
先ほどまで握っていたのは、超硬質ブレードではなかったか?!
あの男が彼女の手を握った瞬間、変わったというのか?
しかしなぜ今、蒼穹双刃を…。
双焔【鬼火】から強化する蒼穹双刃。これまた出逢うのすら難しい、G級老山龍を倒していることが前提の武器。
火から龍へと属性を変えた、今となっては昔語りで出てくるような代物。
相当の鋭さを誇り、匠を付けた際の紫ゲージの長さも一級品。
ナイトでさえ、実物を見たのは初めてであった。
学術院の資料によると、蒼穹双刃を鍛えた者は伝説の職人と謳われていたが、完成させたその剣はあまりに鋭すぎた。恐怖を覚えたその職人は、これを最後に自らの技を封印し、二度と剣を鍛えることはなかったという。
ちなみに、素材元のラオシャンロン亜種の外殻は岩のような灰色をしているが、研磨することで、美しい蒼色になる、とあった。
蒼く輝く双剣。
じっと見つめていると、やがてそれは七色を纏い始めた。
ーーーありえない!
ナイトは汗が滴り落ちるのを感じた。暑さのせいではない。
つかさの身体が紅く燃えるーー。
[真鬼人解放]――鬼人化を越えた先にある奥義で、己の生命を燃やしながら発動させる諸刃の剣。
ーーーまさか、物質に生命力を注いで、属性まで変化させると言うのか!
すぅ……。
一拍おくと、
「はぁぁーーーーーーーっ!」
つかさは倒れている金火竜に斬りかかっていった。
「何だ?」
「は、速い!」
人の限界を越えた速さに、とわ達3人の眼はつかさの動きを捉える事ができない。
それは金火竜も同じで、何とか立ち上がったものの、彼女の動きについていけず翻弄されていた。
乱舞から、乱舞旋風へ移行して容赦ない斬撃を金火竜に叩き込んでいく、つかさ。
七色の光が金火竜を包み込み、金色の煌めきが辺りに散らばる。
それは金火竜の身体から弾けとんだ鱗と甲殻だった。
グゥァァァァァーーー!
金火竜が苦痛に耐えきれずに叫ぶ。
その声を聞いたとわの全身に衝撃が走る。
身体の奥底から湧き上がってきた、何か、とてつもない悲しい気持ち。
これは?金の女王のものか、自分のものか……。
「も…もう止めて……お願い……。」
ジョウジをそっと地に横たえ、とわはよろよろとつかさに向かって歩き出した。
さっきまであれほど憎いと思った金火竜。
しかし、鎧を剥ぎ取られ流血するその姿に、自然と涙が溢れてきていた。
「師匠…待って…。」
目の前のつかさは、見知らぬ人のようであった。
泣くとわを抱きしめて撫でてくれた優しいつかさ。
拗ねるとわに膝枕をし、いい女になるのよと微笑んでくれたつかさ。
あの暖かな、柔らかな眼差しは、今は形を潜めていた。
ゆらゆらと纏う炎のようなオーラが、何人たりとも近づけぬ強さを放っていた。
「あれは…師匠?」
とわが目をこらすと、そのゆらめきの中につかさの姿が見えた。
見知らぬ場所で、数多の兵士相手に血塗れの双剣を振るう彼女。
彼女の視線の先には、玉座。
玉座には男が座り、その横に激しい瞳の男。
つかさは何か、その男と話でもしているのだろうか、最後には泣き叫ぶように言葉を発した。
とわは、はっと我に返る。
何だったの、今のはーーー。
ふともう一度つかさを見ると、一瞬、先ほど見た泣き出しそうな顔に見えた。
「師匠、待って…。」
双剣を再び構えた彼女を止めるべく、とわは手を伸ばした。
「………。」
不意に、とわの前に黒髪の男が立ちはだかる。
その眼は「我が主に近づくな」…そう語っていた。
その視線の冷たさにゾッとする。
とわは思わず叫んだ。
「し、師匠ーーーーっ!」
とわの叫びに反応したのか、つかさが剣を下ろす。
つづく
とわ&GG共著