「みんな、準備はできたかい?」
ワグナーが出発前の確認をとる。
「うん。兄様。」
「えぇ、ワグナー。」
とわと虎姫は、ウルクX装備を身につけている。色こそ違うものの、まるで姉妹のようだ。
動くとぴょんとなびく耳が可愛い。
「おう!」
「もちろんです、若。」
ガロンは相変わらず半裸のような出で立ちで、ジョウジはしっかりと防寒対策を整えている。
全員の準備ができたのを確認すると、ワグナーは歩き出す。
「それじゃあ、出発しよう。」
「ガロン、重くない?大丈夫?」
道中、背中に重そうな箱を背負っているガロンに、とわが訊ねる。
「あ?これくらい平気だぜ。」
足取りも軽く、坂道を歩いていくガロン。
しばらく山道を歩いて目的地についた一行。
ガロンの背中から箱を降ろし、ワグナーは慎重に中身を取り出した。
「これって、ウサギの置物?」
箱の中身を見た虎姫がぴょこんと首を傾げる。
「うん、わたしが作ったんだ。エルクが寂しくないようにってね。」
ワグナーの目は限りなく優しい。
木彫りの、両手で抱えるくらいのウサギ。白い塗料で塗ってある。
「だから荷物運びとして俺を連れて来たんだな?」
ガロンの言葉に、
「それは違うよ、エルクはわたし達の大切な友だから…。
ガロンにもエルクが眠るこの場所を知っておいてほしかったんだ。」
ワグナーが微笑む。
ーーーエルク、君の友達になるといいな。
置物の周りを木の枝で囲み、雪に埋もれない様にしてから全員で黙祷を捧げた。
虎姫が、置物のウサギに自分のマフラーを巻いてやる。
ガロンは、持ってきた干し草を供える。昔、エルクが好んで食べた草だ。
とわは瞳を潤ませて唇を噛む。
ジョウジは、かつての子どもたちの姿を思い出していた。
エルクとの別離の折、泣きながら裸足で後を追ったセシオス。
目を腫らしたとわの肩に手を置いて、涙を堪えていたガロン。
「天国で楽しく遊んでいるかな、エルク…。」
持ってきた食事を取りながら、ワグナーが呟く。
「あいつは懐っこいから、きっとたくさん友達がいるだろうよ。」
ガロンが珍しく静かだ。
「こんなに愛されたのだもの、絶対、幸せよ。」
虎姫の励ましに、ワグナーはそうだねと歯を見せて笑う。
食事を終え、帰り支度を始めようとしたその時…。
ーーカサッ。
草の擦れる音がした。
「何だ?」
全員が一斉に身構える。
そこに現れたのは…。
「あら?」
「きゃっ、カワイイ♪」
小さな、ウルククスの子どもだった。
「何故こんな場所に?」
「親とはぐれたんじゃねぇか?」
辺りを見回す。しかし、何の気配も無い。
「………………。」
「………………。」
しばし、見つめあうワグナーとウルククスの子ども。
互いに視線を逸らさず、じっと見つめ合う。
ーーーまさかーー?
ワグナーはその場にしゃがみ込むと、そっと手を出した。
「……エルク…なのか…?」
心なしか震える声。
その声を聞いたウルククスの子どもは、ワグナーに駆け寄ってきた。
「え?」
「嘘!」
「マジかよ!」
「何と!」
「……っ!おいで、エルク!」
ワグナーは両手を広げ叫ぶ。
「キュゥゥ~~…!」
ウルククスの子どもは、一直線に彼の胸に飛び込んできた!
ーーーやっぱり君なんだね……。
ウルククスの子どもを抱きしめたワグナー。
彼の顔に鼻を寄せて甘えているウルククスの子ども。
──エルク……ああ、エルク……。
脚が雪に濡れるのも構わず、頬を伝う涙もそのままに、
ワグナーは小さきウルクススに頬ずりをする。
幼き頃、それはそれは可愛がっていたがやむなく別れ、
ここ雪山でエルクと再会するも、その手で討ち取らねばならなかったワグナー。
狂竜化していたものの、最期の瞬間正気に戻り、大粒の涙を流し逝ったエルク。
ワグナーはエルクの素材を自らの太刀と耳飾りに加工し、常にその魂に寄り添って来た。
4人の優しい眼差しが、雪山の妖精と銀髪の青年を包み込む。
エルクは、再び小さな姿で、戻って来たのだ。
大好きなワグナーに、思う存分、甘えるためにーーー。
冬の奇跡 fin.
とわ&GG共著