あくる日、チコ村にまた漂着者があった。
幼い女の子と、厳つい大男だ。
「…よぉ、セシオス。」
男は、船の一部であったであろう板につかまり、ゴミと一緒に、平然と漂ってきた。
「?!」
ええと…。スルメは考える。
「オレだよ、ガロン!なんでぇ、忘れちまったのかよ。」
男は、ざばざばと波をかき分け、のしのしと浜に上がり、ぶるぶると頭を振る。
――ガロン…聞いたことあるような……。
「スルメ、そいつはあんたを知った人間のようだな。」
爺ちゃんが、漂着した女の子を抱き上げながら言う。
「礼を言わねばなるまい。その男、わしの孫娘を助けてくれたようだからな。」
幼き女児は、爺ちゃんに抱っこされながら、大男にありがと、と声をかけた。
「ああ、目の前に浮いてたから助けただけだ、礼は要らねえぜ。」
スルメと爺ちゃんの2人宿に、人が増えた。
あまりに狭いので、ガロンと名乗る大男とスルメは、外で寝ることにする。
「なんだよスルメって。笑えるじゃねーか。」
「仕方ないだろう、私には記憶がないのだから。」
「おめーはセシオスってんだよ。俺のダチだ。とわの野郎も、おっさんもお前を探しているだろう。
早々にここを立つぞ。」
「…私には、帰る場所があるのか?」
「何言ってんだ、アホかお前。とわがどれだけ泣いたと思ってんだ。」
「……。」
わからない。自分を探してくれている人がいると聞いても、ピンとこない。
帰りたいとも、正直、思えない。
「あまりでかい声で騒ぐな。孫が起きてしまうじゃろ。」
爺ちゃんが外に出てくる。
「スルメ、次の交易船でも流れ着いたら、仲間の元に帰るんじゃ。」
「爺ちゃん…。」
「待つ者がいるのは良いぞ。」
老ハンターは満天の星空を仰ぐ。
「わしには、どうやら孫娘しか残っておらぬようじゃ。
息子も、その嫁も、今頃、この近くの海で眠っているだろう。
あの子が生きていただけでも奇跡と思わねばなるまい。
家内もとうの昔に他界したしな。」
スルメは俯いた。
老ハンターは、彼の肩を叩く。
「優しい男じゃ。きっと良いハンターになる。」
「…爺ちゃんはどうするの?」
スルメは訊ねる。
「わしか?そうさなあ…。もう、あの子にはわししかおらんから、無茶はできんな。
……ハンターは引退じゃな。」
孫娘の眠る宿を見ながら、彼は小さく笑う。
優しい祖父の顔。ハンターを退く寂しげな顔。どちらもが感じられて、スルメは言葉が出なかった。
波の音が、ただ優しく夜を包む。
さらに数日して、交易船がやってきた。
嵐で進路が狂い、ここに来てしまったとのこと。
スルメ達は、船に乗り込む。
爺ちゃんは、姿を見せなかった。
短い間だが一緒に生活した爺ちゃん。
スルメ、いやセシオスは、後ろ髪引かれる思いで後部甲板に立っていた。
船が出港する。
村の皆が手を振って見送ってくれる。
……爺ちゃんはいない。
セシオスはそれでも、船尾に立ち続けた。
ふと、ホラ貝の音が響く。
はっと目をこらすと、遠く、島の一番高い場所で、誰かがホラ貝を吹いている。
2、3響き渡り、音がやんだ。
人影は、大きく何かの葉を揺らしている。何か文字が書いてあるが、遠すぎて読めない。
「爺ちゃん…。」
実の父親にすら感じたことのない感情。セシオスは、大きく手を振り返す。
見えるだろうか。
「セシオスへ。孫といるようで楽しかった、元気で。だとよ。」
銀髪の青年の隣に、ガロンが立つ。
「俺は目が良いんだ。」
「……わたしの目は、悪いのかな……、かすんで…見えないや…。」
人との出会いは、是財産なり。
次に爺ちゃんに会った時、逞しくなったな、そう言ってもらえるよう、頑張っていこう。
セシオスは、心に決めた。
fin
とわ著