番外編・夏の村 2 | 徒然とわ日記

徒然とわ日記

日々の暮らしの中、心に留まった事を綴ります(^-^)
雑記帳みたいなものです。
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あくる日、チコ村にまた漂着者があった。


幼い女の子と、厳つい大男だ。



「…よぉ、セシオス。」

男は、船の一部であったであろう板につかまり、ゴミと一緒に、平然と漂ってきた。

「?!」
ええと…。スルメは考える。

「オレだよ、ガロン!なんでぇ、忘れちまったのかよ。」

男は、ざばざばと波をかき分け、のしのしと浜に上がり、ぶるぶると頭を振る。

――ガロン…聞いたことあるような……。





「スルメ、そいつはあんたを知った人間のようだな。」


爺ちゃんが、漂着した女の子を抱き上げながら言う。



「礼を言わねばなるまい。その男、わしの孫娘を助けてくれたようだからな。」



幼き女児は、爺ちゃんに抱っこされながら、大男にありがと、と声をかけた。



「ああ、目の前に浮いてたから助けただけだ、礼は要らねえぜ。」




スルメと爺ちゃんの2人宿に、人が増えた。


あまりに狭いので、ガロンと名乗る大男とスルメは、外で寝ることにする。



「なんだよスルメって。笑えるじゃねーか。」



「仕方ないだろう、私には記憶がないのだから。」



「おめーはセシオスってんだよ。俺のダチだ。とわの野郎も、おっさんもお前を探しているだろう。


早々にここを立つぞ。」



「…私には、帰る場所があるのか?」



「何言ってんだ、アホかお前。とわがどれだけ泣いたと思ってんだ。」



「……。」


わからない。自分を探してくれている人がいると聞いても、ピンとこない。


帰りたいとも、正直、思えない。




「あまりでかい声で騒ぐな。孫が起きてしまうじゃろ。」


爺ちゃんが外に出てくる。




「スルメ、次の交易船でも流れ着いたら、仲間の元に帰るんじゃ。」




「爺ちゃん…。」




「待つ者がいるのは良いぞ。」


老ハンターは満天の星空を仰ぐ。




「わしには、どうやら孫娘しか残っておらぬようじゃ。


息子も、その嫁も、今頃、この近くの海で眠っているだろう。


あの子が生きていただけでも奇跡と思わねばなるまい。


家内もとうの昔に他界したしな。」




スルメは俯いた。


老ハンターは、彼の肩を叩く。


「優しい男じゃ。きっと良いハンターになる。」




「…爺ちゃんはどうするの?」


スルメは訊ねる。




「わしか?そうさなあ…。もう、あの子にはわししかおらんから、無茶はできんな。


……ハンターは引退じゃな。」


孫娘の眠る宿を見ながら、彼は小さく笑う。




優しい祖父の顔。ハンターを退く寂しげな顔。どちらもが感じられて、スルメは言葉が出なかった。


波の音が、ただ優しく夜を包む。






さらに数日して、交易船がやってきた。


嵐で進路が狂い、ここに来てしまったとのこと。




スルメ達は、船に乗り込む。


爺ちゃんは、姿を見せなかった。




短い間だが一緒に生活した爺ちゃん。


スルメ、いやセシオスは、後ろ髪引かれる思いで後部甲板に立っていた。




船が出港する。


村の皆が手を振って見送ってくれる。


……爺ちゃんはいない。




セシオスはそれでも、船尾に立ち続けた。






ふと、ホラ貝の音が響く。




はっと目をこらすと、遠く、島の一番高い場所で、誰かがホラ貝を吹いている。


2、3響き渡り、音がやんだ。




人影は、大きく何かの葉を揺らしている。何か文字が書いてあるが、遠すぎて読めない。




「爺ちゃん…。」


実の父親にすら感じたことのない感情。セシオスは、大きく手を振り返す。


見えるだろうか。




「セシオスへ。孫といるようで楽しかった、元気で。だとよ。」


銀髪の青年の隣に、ガロンが立つ。


「俺は目が良いんだ。」




「……わたしの目は、悪いのかな……、かすんで…見えないや…。」






人との出会いは、是財産なり。




次に爺ちゃんに会った時、逞しくなったな、そう言ってもらえるよう、頑張っていこう。


セシオスは、心に決めた。








fin


とわ著