ジョウジは、とわと再会した晩に、聞いた話を思い出していた。
傾きかけた貴族。
とわの父は、大臣との繋がりを目論んだ。
既に他国へ嫁いだ姉、まだ幼すぎる妹。出奔した兄。
当然、白羽の矢はとわに立った。
当初、大臣の息子との縁談であった。しかし、彼女を見た大臣は、自分の5番目の妻とすることに決める。
ここまではよくある話だ。
しかし、とわの成人前の可憐さは、まるで魔性の花のように男達を狂わせた。
あろうことか、実の父親までもがまだ成熟しきらぬ彼女を手にかけた。
――あの時、お嬢様を守れなかった。
情けなさと怒りが蘇る。
「爺やと兄様にもう一度だけでも会いたかったのよ…。」
お嬢様のあまりに悲しい告白。一度だけでいい、そう願う彼女を腕の中に抱いた苦しい記憶。
ジョウジははっとした。
花というのは…。
「どうして…も……、
我がものには…なら…ぬ……か……。」
真っ赤な池に沈みゆく男を、とわは冷たい目で見つめていた。
「人を物扱いするような男に、屈しはしないわ。」
わたくしはもう、あの時のように、か弱いお嬢様ではない。
姉様のように、運命を嘆きながら受け入れる女でもない。
「わたくしは、ハンターよ。運命は自分の手で狩りとるの。」
とわは凛と背筋を伸ばす。
そして、生かしておけばこの先永遠に自分を追うであろう哀れなこの元大臣に、せめてもの情けを与える。
「切傷が痛むでしょう?……楽に逝きなさい。」
彼の口に、薬を流し込む。
有毒花から抽出したエキスに、ネムリ草、モンスターの特濃、ハチミツを混ぜたもの。
口当たりがよく、服用者は痛みを忘れて眠るように逝く、そんな薬だ。
男が血溜まりに伏して動かなくなってから、とわは彼の亡骸に十字を切る。
――わたくしに出会わなければこの人は、一生大臣として生き、温かいベッドの中で死ねたのだろうか。
自分から、かつて大切なものを奪った憎い相手だが。
とわは彼のために一筋、涙を流した。
真ん丸な月が道を照らす中、とわは重い足をなんとか動かして、村へ戻ろうとしていた。
ハンターになった理由の一つに、強くなりたいという思いがあった。
しかし、人を殺めるためでは無かった。
――わたくしは、天国には絶対に行けない。
止まらない涙をそのままに、彼女は必死で足を動かす。
つづく
とわ&GG共著