「…若、お話があります。」
ジョウジの言葉にワグナーは、手作りアクセサリーの教本をめくる手を止めた。
「なんだい、爺や?」
「虎姫殿のことですが、一度、正式にご両親の元に挨拶に行かれてはどうかと思いまして。」
ワグナーは頷いた。
「うん…そうだね…。
手紙は送ったけれど、やはり一度、直接会っておきたいな。」
「はい、それと…。」
「それと?」
ワグナーは聞き返す。
ジョウジは続ける。
「挨拶には、お二人だけで行っていただきます。」
爺やの言葉に驚くワグナー。
「そ…それは……昼夜虎姫と二人きり…」
顔が赤くなる。
ワグナーは慌てた。
「待ってくれ、わたし達は、まだ夫婦になった訳ではないぞ。」
ジョウジはにこりと笑い、言い放つ。
「拙者は、とわお嬢様のお世話をせねばなりませぬゆえ。
それと、今後の為にも、二人だけで過ごして頂いた方がよろしいかと。」
今後のため…。
そこまで言われると拒否する訳にもいかない…。
ワグナーは腹を括った。
「わかった。では、暫くの間留守にするから、とわのことは宜しく頼むよ。」
ジョウジは一礼する。
「…御意。」
ワグナーは、あれから、景色の美しい場所を意識的に探すようにしていた。なんとか妻になる女性を喜ばせたい。
今のところ、彼がピックアップしたのは。
まず「未知の樹海の最深部の景色と虹」。
普段はすぐに車に乗り込んでしまうが、先日ふと空を見上げてみたところ、左上空に、大きな虹がかかっていた。
雄大な山々が連なり、河が流れ、色鮮やかな鳥が舞う。
「地底洞窟エリア1から見下ろす、地底湖」。
深い深い闇に光るサファイアのようで、思わず足を止めた。苛立ちを一瞬で鎮めるような、そんな神秘がある。
「ナグリ村の奥に広がる地底湖」。
これも、見落としがちだが、イサナ船の後方に広がる、まるで「青の洞窟」のような、真っ青な輝き。
あの湖の先はどこに通じるのだろう。
ワグナーは、肩に寄りかかって眠る虎姫に毛布をかけてやりながら、荷馬車に揺られ続ける。
彼女の故郷、モガへの旅。
ご両親への挨拶という大切な意味を持つ、ワグナーにしてみれば、一世一代の大勝負に向かう旅路である。
…緊張するかだって?
もちろんさ。
今だって、正直、緊張している。
ワグナーは努めて、気楽なことを考える。
懐かしいモガ。タンジアにも寄りたいな。
つづく
とわ&GG共著