エピソード・再会 ワグナー編 八 | 徒然とわ日記

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日々の暮らしの中、心に留まった事を綴ります(^-^)
雑記帳みたいなものです。
見てくださったら嬉しいです(^_^)/

「…………。」

黙るワグナーを虎姫は不思議そうに見つめる。
「…どしたの?」

ワグナーは月を仰ぐ。
「…何だか…眠れなくてね。…ねぇ虎姫。」

虎姫は答える。
「何?」

「医者に訊いたんだけど…。」

相槌をうつ。
「うん。」

「もしも前の記憶が戻ったら…今の記憶が消えるかもしれないんだ。」

「え…」

銀の髪が風でなびき、ワグナーの表情は見えない。
「だから、爺やと妹の事を思い出したら…。」

虎姫は小さく問う。
「あたしの事…忘れちゃうの?」

ワグナーもまた、呟くように答える。
「必ずそうなるとは限らないけど…。」

「…………。」
虎姫は少し間をおいた。

「いいよ、それでも…」

ワグナーは思わず虎姫を見る。
「え?」

虎姫は優しく微笑んでいた。
「だって…本当のワグナーに戻れるんでしょ?
そっちの方が大事だよ。」

「虎姫…。」

「あたしなら平気だよ…。だから、早く記憶が戻るといいよね!」

声がうわずらないように、できるだけ意識してしゃべる。
「あたし、もう寝るね!
おやすみワグナー!」

閉められた窓。
ワグナーは、そっと問いかける。

「本当に…それでいいのかい、虎姫……?」


虎姫は、カーテンを後ろ手に閉め、必死で涙を堪えていた。

――あの人の記憶から、あたしが消えるのは辛い…。

涙がこぼれそうになり、天井を仰ぐ虎姫。

――でも、あの人が本当の自分に戻れるのなら…。

嗚咽が漏れそうになり、虎姫はぐっと歯を食いしばる。

――それでもいいわ…。

――その時が来るまで…、
あたしは、あの人の傍にいる…。

――例えあたしがあの人の中から消えてしまっても。

とうとう虎姫は、しゃがみ込み、両手で顔を覆う。

―それでも…、
あたしの記憶の中に、
あの人は永遠に残るのだから……。




ワグナーも悲痛な面もちで、隣の窓を見ていた。



翌日から、ワグナーはスケッチを始めた。

本を読む虎姫。
こっちを見て、照れる虎姫。
料理を作る虎姫。


あらゆる彼女を、クロッキー帳に描き留めていく。


――記憶が戻っても、
――このひとを忘れないように…。



つづく
とわ&GG共著