月明かりの中、佇んでこちらを見上げた兄に、とわは思わず叫んだ。
「兄様!」
しかし、彼女の叫びは大好きな兄には届くことはなく…。
吹き荒れる風の中、踵を返した彼は、二度と振り返る事はなかった。
……とわ、みずき……
青年は、そっと目を伏せた。
……お前たちは、
貴族の切り札ではなく、一人の女性として幸せになれ……。
政治の道具のようにして嫁いで行ったカレン姉さんのようには、ならないでほしい。
婚礼の前夜、ジョウジの腕の中で嗚咽する姉の姿を思い出した。
あれほど悲しそうな、それでいて悔しそうなジョウジの顔も、見たことが無かった。
姉の涙は子ども心に本当に美しく、愛する者と引き裂かれる痛みをまだ知らぬ彼にも、2人の悲しみは存分に感じとれた。
その姉も、他国に嫁いでもうここには居ない。
「……」
月明かりだけが、煌々と2人を照らす。
「…行こう、爺や」
「……御意」
――もともと、あの時落としていたかもしれない命だ。
わたしは、マリオネットではない。わたしという一個の人間として、全力で生きてみたい。
例え、それが、ハンターとなることで、短く散るかもしれぬものであっても。
こうしてセシオスは、生まれ育った家を離れ、ハンター・ワグナーとしての道を歩き出した……。
自分が勘当扱いとなり、流行り病で死んだことにされたのをワグナーが知ったのは、だいぶ後になってからのことだった。
旅立ちfin
とわ&GG共著