闇に包まれたある日のことだった。

巨人の足のような雷が鳴り轟き
風と雨が何重もの不協な音奏とリズムで荒々しく殴りつけ
遠近感を失った漆黒の海から迫りくる怒濤の波が
底の見えない暗闇の奥で飛沫をあげながら怒り叫んでいる。

不安や絶望を映画の一場面にしたような
この世の終わりを風景描写したような
そんな嵐の中
海に突き出たある断崖の孤島で
私はひとり、遠くを見つめていた。

大人でもなく、子どもでもない年頃の私は
ひどく何かを怖がっていて
声を出すこともできずに途方にくれていた。

孤島というよりは高い岩の頂上に佇んでいるらしく
四方の絶壁の崖が私をより不安にさせていた。

時間も空間もどこか異質で
私ですら自身の影や実体を微塵も感じることができない。

ただ、ある瞬間、境目のない暗雲の彼方より
一羽の大きな鳥がこちらに飛んでくるのだけは
はっきりとわかった。

鳥は、その大きくて立派な羽を堂々と広げ
混沌とした嵐の中を唯一無二の存在として優雅に
けれども慎ましく、私の頭上へと飛んできた。

その鳥が鷹であったか、鷲であったか
今となってはもう思い出せない。
そのどちらかであったかもしれないし
そうでないかもしれない。

呆然と眺める私に
鳥は何か話しかけているようだった。
私の頭上を旋回しながら
見えない誰かに呼応するように
しきりに鳴いていた。

私は彼の描く弧の軌跡を目で追いかけながら
じっと嵐の咆哮の微かな合間に聞こえる
その声に耳をすました。

鳥の鳴き声に過ぎなかったかもしれないし
私が理解できる言葉であった気もしている。

ただそれは間違いなく、お告げのようであった。
震える闇の中の匿名の指標であった。

神や天といった神聖な気配や
この先の未来とか希望といったような
私を支える肯定的なものでは何ひとつとしてなかったが
そのときの私にとって
それはお告げであったことは確信を持って感じられた。

しばらくして
もときた空へと鳥はゆっくりと舞い戻っていった。
止むことのない嵐の彼方へと羽ばたいていった。

再び足下からそろりと近づいてきた
言いようのない不安の気配を察しながら
私はただひたすら鳥の行方ばかりを見つめていた。

嵐は変わらずに無表情で
断崖に頼りなく佇む私が
やがて、遠くへ遠くへと、小さくなっていった。



そんな夢をみた。