“垣間見”が不得手なチンパンジー


 物の隙間から、こっそり“のぞき見る”ことを「垣間(かいま)見る」と言う。こうした瞬間的、部分的な情報から全体を把握する能力は、ヒトだけのものか? 京都大学霊長類研究所准教授の友永雅己氏と元・特定助教の伊村知子氏(新潟国際情報大学講師)らは、同じ霊長類のチンパンジーを使って実験した。やはり結果は、ヒトの能力の方が上だった。こうしたヒトだけの特異性は、ヒトの“心の進化”にも関係していると考えられる。


実験は4匹のチンパンジーと8人の成人を対象に行った。3種類のイラスト(ソフトクリーム、はさみ、ニワトリ)が描かれた線画をそれぞれ、隙間の向こう側で左から右に動かし、それが「何であったか」を、次の画面で表示した3枚の線画から選び、当ててもらう方法だ。

 最初に線画の全体を見せたまま動かしたところ、チンパンジーは90%以上の正答率だったので、チンパンジーも線画は正しく認識できる。しかし隙間の向こうで動かした場合の正答率は55.7%、ヒトでは94.7%だった。意味を持たない図形の線画でも試したが、隙間から見た時の正答率は、チンパンジーでは 45.4%、ヒトでは88.4%と、やはりヒトが優位だった。

 これまで、ヒトとチンパンジーの視覚機能には、多くの類似点があると考えられてきたが、時間的・空間的に細切れの視覚情報を1つに統合して見る働きは、ヒトで特に優れていることが、今回の研究で示された。

 研究論文“Differences between chimpanzees and humans in visual temporal integration”は英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。






<ナショナルジオグラフィック 記事より>