蛹から蝶への完全変態(メタモルフォーシス)がマイクロCTの3Dスキャンで明らかに



音史のブログ-完全変態1


 サナギからチョウになる変態プロセスは、自然界でもっともすばらしく不思議な現象のひとつだ。サナギの中で幼虫の体の組織が少しずつ変化して、空を飛ぶ美しい成虫に変身する。

 この完全変態(メタモルフォーシス)という仕組みは、チョウ、アリ、甲虫、ハエなど大多数の昆虫が採用したうまく生きる延びるための道で、サナギの中で劇的に体を改造して成虫になり、幼虫と成虫の世界はまるで違う。

 いったい、サナギの中ではなにが起こっているのか? 幼虫が酵素を出して、体の大部分の組織を壊し、たんぱく質を組成することはわかっている。よくどろどろのスープのようなものに溶けると言われるが、厳密には正確ではない。いくつかの器官はそのまま残り、筋肉のような組織は再利用できる細胞の塊に解体される。レゴの模型をバラバラにするようなものだ。いくつかの細胞は、触角、目、足、羽など成虫の体のパーツを作る原基となり、サナギの中身のスープは、いわば有機物のつまっただし汁のようなものだ。

 ここまでわかったのは、科学者がたくさんのサナギを解剖してみた結果だが、変態の進捗を見るためには、それぞれ違う成長段階のサナギを解体しなくてはならなかった。しかし、今はマイクロCTという技術を使って、解剖せずにサナギの中の幼虫の変態をとらえることができる。これはX線で対象物の断面図をとらえ、3Dの視覚モデルに作り直したものだ。

3-D scans of a butterfly chrysalis


 これなら、実際のサナギを切り刻まなくても、消化管や呼吸管といった器官の構造を見ることができる。しかも一匹のサナギを時間を変えて繰り返しスキャンすることで、組織の変態状況を観察することができるのだ。昆虫は高い放射線量に耐性があるため、X線を当てても害はない。

 マイクロCT技術でサナギを調べるこの試みは、犯罪捜査にも使われる。クロバエは新鮮な死体に産卵するため、このサナギを調べることで、その変態の進み具合から死亡推定時刻を推測することができるのだ。

 ロンドン自然史博物館のトーマス・サイモンセンらは、チョウやガのサナギの背中、横、お腹のそれぞれの方向からスキャンした。幼虫の内臓が急速に変化して、細く短く縮んで巻いていくのがわかる。一方、気管は大きくなるとほとんど変化しなくなる。ほとんどの器官はサナギの中で大きくなるが、気管は違う。一日目から、ヒメアカタテハのサナギはすでに成虫のチョウの呼吸器をもっているという。サナギになった最初の数時間で急速に変化したか、まだ幼虫の段階で変化したと考えられる。大きな呼吸器は、飛翔筋にたくさん酸素をたくさん運ぶことができるからかもしれない。

音史のブログ-完全変態2


このマイクロCTスキャンのおかげで、希少で貴重な種も傷つけることなく調べることができる。農薬がミツバチの成長に与える影響や、違う遺伝子の変異が変態の過程をどのように変えるのかを見ることができる。普通の個体と、特殊な遺伝子のせいで欠陥のあるさまざまな変種を比較してみるのにも都合がいいという。





<カラパイア 記事より>