小惑星で採鉱ビジネス? 米ベンチャー


 アメリカの新興企業ディープ・スペース・インダストリーズ(DSi:Deep Space Industries)は1月22日、今後数十年間で何千個もの地球近傍小惑星に探査機を送り、資源採掘を行うプランを発表した。宇宙分野の新技術開発や商業用ロケットの発展、巨額の利益を見込んでいる。


音史のブログ-採鉱ビジネス
 いずれ巨大な車輪型宇宙ステーションが、小惑星に建設されるかも知れない(イメージ図)。

Illustration courtesy Bryan Versteegm, DSI


 民間宇宙会社としては後発のDSi社は、資金力も十分ではない。しかし、小惑星での鉱物採取を最初に実現し、将来的には大規模な採掘や製造事業につなげたいと野心満々だ。取締役のマーク・ソンター(Mark Sonter)氏は、「21世紀の資源開発における大きなチャンス」と表現する。

 2015年までにノートパソコン程度の大きさの“キューブサット(小型人工衛星)”を開発、小惑星で試掘を開始し、サンプルを地球に持ち帰る予定という。

 会長のリック・タムリンソン(Rick Tumlinson)氏は、民間宇宙業界の先見性あるリーダーとして以前から一目置かれている。「低コストの技術を使い、アメリカの宇宙探査の伝統と若い優秀な技術者のイノベーションを組み合わせれば、数年前には不可能だったプランを実現できるだろう。宇宙には無限の資源が眠っている」と語る。

◆小惑星の“付加価値”

 地球近傍に約9000個ある小惑星は何種類かの資源を含んでおり、その経済的価値が企業家に注目されている。

 金やプラチナなどの貴金属も見つかっているが、採掘が実現した場合には、水、シリコン、ニッケル、鉄などが“宇宙経済”の中心になるだろう。

 水から水素や酸素を抽出すれば、燃料や生命維持に利用できる。シリコンはソーラー発電装置用、広く存在するニッケルや鉄は、宇宙での“ものづくり”の材料としての可能性がある。

 オーストラリア出身の鉱業コンサルタントで小惑星の専門家でもあるソンター氏は、「700~800個の地球近傍小惑星は、到達や着陸が月よりも簡単だ」と話す。

 DSi社の試掘用探査機は、アメリカで人気のSFテレビドラマにちなんで「ファイヤーフライ(FireFlies)」と命名された。通信衛星や科学機器を打ち上げるロケットに“ヒッチハイク”して運ばれるが、独自の推進装置も備えている。続いて、大型の「ドラゴンフライ(DragonFlies)」も計画中だ。

◆効率的な宇宙探査

 荒唐無稽な話に聞こえるが、DSi社CEOのデイビッド・ガンプ(David Gump)氏は、「技術革新のスピードは速く、“宇宙経済”もすぐに実現するだろう。地球外で調達した資源を探査機の燃料として使用したり、宇宙旅行者の生命維持に役立てるのは理にかなった方法だ」と強気の姿勢を崩さない。

 確かに、宇宙旅行で最も費用がかかり、資源が消費されるのは地球大気圏の通過中だ。火星探査機を打ち上げるロケットの場合、重量の90%は燃料が占めるという。ガンプ氏はカリフォルニア州サンタモニカにある航空博物館での記者会見で、「燃料の一部を途中で調達できれば、火星探査ははるかに安く、効率的に実施できる」と語った。

◆小惑星の所有権、採掘権は?

 宇宙業界の企業家たちは、地球外で採掘した資源について権利を主張できると信じているようだ。しかし、法的な問題はまだ十分に検討されていない。

 1967年に発効した国連の宇宙条約では、地球上の国家による他の天体の領有が明確に禁止されている。しかし、アメリカ政府は、民間企業や採掘権には当てはまらないと主張してきた。

 アメリカでは2001年、NASAの探査機が小惑星エロス(433 Eros)に接近したとき、グレゴリー・ネミッツ(Gregory Nemitz)なる人物がエロスの所有権を裁判で主張したが、「個人は小惑星を所有できない」という判決が下された。一方、採掘権についてはまだ判例がない。

 一方、アポロ計画で地球に持ち帰った月の石は、アメリカ合衆国に帰属すると見なされている。また、ロシア連邦宇宙局はミッションで採取した月のサンプルの一部を販売したことがあり、金銭を伴う所有権移転の前例を作ったと指摘されている。





<ナショナルジオグラフィック 記事より>