アマエビ――相場はジェットコースター。目が離せない




 図鑑で紹介される場合は、タラバエビ科のホッコクアカエビ。タラの漁場と同じ海域に棲む北国の赤いエビという意味だ。でも名前としては、なんたって通称のアマエビ。刺身で食べたときの、ねっとりしたあの甘さときたら。さしものイセエビもクルマエビも、あの食感と甘さには、さぞや地団駄踏んでることだろう。




こうして刺身としての人気を誇っているアマエビだけど、かつてはただのローカルエビ扱い。まともなエビ屋さんは見向きもしなかった、とは元エビ屋の大旦那。「生がいけんだってよ、甘くてよ」なんて噂も広まった30年ほど前から、その名を馳せるようになった。




通路まで舞い込んでくる北風に、つい小走りとなる厳寒の築地市場。エビ屋近くにやってきて、パッと目に飛び込んでくるのがアマエビだ。氷の上にツンモリ盛り上げてあるから、目のさめるようなトンガラシ色のかたまりになって、迫ってくる感じなのだ。




近づいて見れば、お腹には青緑の透明な粒々がいっぱい、卵を抱いているのも特徴だ。実は、雌しか市場には登場しないのだ。おもしろいことに、幼いころのアマエビは、すべて雄。それが数年後、成長すると雌へと性が転換。つまり雌になって、初めて商品価値のあるサイズになる。ま、マダイは雌から雄へ、コチは雄から雌へ。海の中で、性転換はさほど珍しくないことらしい。




ということはさておいて、市場暮らしは相場に敏感な体質を育てるらしく、横目で素早くチェックするのはその日の価格だ。なにしろアマエビの相場ときたら、ジェットコースター。国産は、今や北海道が頼みの産地であり、かの地が時化(しけ)たら、ポンとキロ1万円にも。かと思えば、2~3日後には2千なにがしかに。


猫の目相場にあきれながらも、そういうとこに商いのうまみは潜んでる、なんて想像すると、妙に気持ちが昂たかぶるのだ。




そんなアマエビだから、日常的にお目にかかるのは、国産の十数倍という流通量の海外産。グリーンランドなどの北欧産やロシア産だ。北欧産はこぶり、ロシア産はやや大きめ。値段を商社のすし種担当にいわせると「回転ずしで100円で回っているのが北欧産、200~300円がロシア産」ということに。ところがその北欧産が、ここへきて大不漁。100円クルクルの舞台から消えるのではないか、と商社筋ではもっぱらの噂とか。そういえば、最近スーパーの刺身盛り合わせのアマエビの数、減ったような気がしないでもない。盛り合わせに、北欧サイズは手頃なんですよね。もっともロシアは豊漁とのこと。世の中、そこそこうまくできているとは、このこと?










<PRESIDENT Online食の研究所 記事より>