朝の光を浴びて朝食をとるのが正しい

“朝食是非論”に決着を(前篇)


 多くの人にとって、朝とは忙しい時間だ。「寝ていたい」と「起きなければ」のせめぎ合いに決着がついてからも、顔を洗い、歯を磨き、身支度をしてと、やることは多い。

 そんな慌ただしい時間に「朝食をとる」なんてとても無理という人もいるだろう。特に若い世代の男性にその傾向は顕著で、朝食をほとんど食べていない日本人男性は20歳代で21.0%、30歳代で21.4%と、2割を超えている。女性の方は、20代で14.3%、30代で10.6%と低めだが、朝食をとらない人は増えている(以上、厚生労働省「平成21年 国民健康・栄養調査 」より)。

 そんな「朝食抜き」の人たちにとって福音となるのが、「朝食はとらなくてもよい」または「朝食はとるべきではない」と述べる専門家たちの話だろう。「朝食抜き」の健康法を説く本は出版され続け、「朝食抜きダイエット」も話題になっている。その論拠も一見、科学的で説得力のありそうなことが書かれていそうだ・・・。

 本当のところ、朝食は体にどのような影響を与えるのか。朝食をとることは体にとって良いことなのか、それとも、とらなくてもかまわないものなのか。そんな問いを「時間栄養学」を研究する早稲田大学先進理工学部の柴田重信教授に投げかけてみた。

 「時間栄養学」とは、時間を軸に展開される栄養素の消化、吸収、代謝、排泄などを研究する学問のこと。薬の効き目が飲む時間により変わってくるのと同じく、食べものの体への影響の仕方も時間により変わってくるという考え方から、ここ数年で研究が進んでいる先端分野だ。

 前篇では、柴田教授に、朝食をとると体がどうなるのかを聞いてみたい。最近の研究で分かってきたことを披露してもらおう。そして後篇では、世間の「朝食抜き健康法」や「朝食抜きダイエット」で言われている論拠を柴田教授にぶつけてみることにしたい。


体は「時計」に支配されている

──最近は「どのような食事をとるか」といった中身の話題とともに、「いつ食事をとるか」といった時間に関する話題も増えています。


柴田重信氏(以下、敬称略) 私たちの体は時計に支配されています。いろいろなものを食べて、吸収して、体内で別のものが作られるといった過程のかなりの部分に時計が関わっていることが分かっています。

 例えば、コレステロールは夕方に体の中でとてもよく合成されます。そのため、コレステロールが高い人は、増えるコレステロールを抑えようと夕方に薬を飲むわけです。炭水化物もまた、昼間に体の中で効率よく取り入れられます。その方が生きる上で効率が良いからです。

 実際、3万ほどある人の遺伝子の発現の仕方を調べてみると、15~20%が毎日、朝昼晩で変動を繰り返していることが分かってきました。遺伝子の発現の仕方が時間により変われば、体の働き方もまた変わってきます。時計に支配される遺伝子には、エネルギー代謝に関わる遺伝子なども含まれていますから、「いつ食事をとるか」も重要になってきます。

──私たちの体を支配する「時計」とはどこにあるのでしょうか?

柴田 体の中にあるのです。中心となる時計遺伝子が15種類ほど見つかっており、時計の部品として働いています。そして“標準時計”が脳の中にあり、その標準時計に合わせた“家庭時計”のようなものが、それぞれ肝臓、腎臓、肺、心臓などのほとんどすべての臓器にあります。これらの“家庭時計”が、朝昼晩などの時間による遺伝子の発現や体の働きかたの変化を支配しているわけです。

 地球には、初めから太陽の光による明暗がありました。その明暗にうまく適応した生物しか生き残ってこなかったのです。人間でも、遺伝子変異で体の時計が完全に止まったような者は淘汰されました。結局、昼に動いて夜に寝る方が、一日中、動いているよりも楽ということです。


体の中で「夕食の朝食化」が知らずに進行

──朝食に関して、体内時計の研究で分かってきたことはありますか?

柴田 朝食によって、体内時計をリセットすることができることが分かってきました。

 朝食は、「ブレックファスト」(Breakfast)つまり「断食を破る」と言うように、本来、長いこと食べなかったあとで食べることです。夕方に夕食をとってから翌朝に朝食をとったとすれば、食事を半日とらないことになります。

 実は、半日もの長い間隔を空けて食べると、短い間隔しか空けないで食べたときよりも、体内時計がリセットされやすくなることが分かってきたのです。体内時計がずれていた場合、間隔を長く空けてから食事をとれば、時計のずれを直すことができるというわけです。

 マウスでの実験ですが、昼か夜かを分からなくした状態で、それぞれ16時間と8時間という間隔を空けて餌を与えました。このとき、餌の量の比率を、3対1や2対2のように変えていったのです。すると、2対2のとき、体内時計のリセットは、16時間の間隔を空けたあとの食事の方に起きることが分かりました。つまり、同じ食事の量では、間隔を長く空けてから食べる方が時計がリセットされるわけです。

──そのとき、体の中では何が起きているのですか?

柴田 体が「さあスタートするぞ」といった状態になるとイメージしてもらえばと思います。間隔を長く空けてから食事をとると、インスリンの量が多くなり、インスリンから来たシグナルが体内時計のスイッチをカチャッと押すようになります。

 そのため、間隔を空けてからの食事で体内時計をリセットするときには、インスリンを出しやすくする炭水化物をとることが適していることになります。逆に、脂肪分だけの食事は向いていません。

──間隔を長く空けたあとの食事をどの時間にとるかが、「スタートするぞ」と体内時計をリセットする上では重要ということですね?

柴田 そうです。この話からすると、夜にとっていた食事が、朝食のような存在になってしまうという恐ろしいことも考えられます。


 例えば、昼の12時に昼食をとったあと、夕方に食事をとらず残業をして、23時にやっと夕食をとるとします。夜に朝食を食べてこれから活動を始めるといったような体内時計になってしまいます。この場合、夕食から朝食までの間隔は8時間なのに対して、昼食から夕食の間隔は11時間。夜に朝食を食べてこれから活動を始めるような体内時計になってしまいます。宵っ張り型の出来上がりです。

 こうならないための方法があります。23時にとっている夕食を、19時と23時に分けてとるのです。これにより、体内時計をだいぶ戻すことができるようになります。小腹が空いているときは、食べた方がよいということになります。


日光と朝食のリセットがずれると太る?

──朝の日光を浴びることで、24.5時間周期の脳の体内時計(標準時計)をリセットし、24時間周期の実生活に合わせることができると聞いたことがあります。このことと食事をとることには、なにか影響をもたらす関係性があるのですか?

柴田 あります。それぞれのリセットの時間がずれると、時差ぼけのようになってしまいます。これは太ることにもつながっていきます。

 こんな研究があります。朝、日光を浴びることで脳の体内時計をリセットしながらも、一方で食事の時間をわざとずらすのです。間隔を長く空けてからの食事、つまり通常の朝食にあたる食事を、夜中の時間帯にもってくるのです。これで、食事による体内時計のリセットは夜に起きます。

 すると、光を浴びることによる朝のリセットと、長い間隔を空けて食事をとることよる夜のリセットが、引っ張り合いを起こしてしまいます。これにより、体の機能のピークがなくなってフラットになり、体のリズムが壊れてしまうのです。

──太ることにもつながるというのはどういうことでしょうか?

柴田 体内時計によるリズムのメリハリがないと、メリハリがあったときは食べなかったような時間にも食べるようになってしまいます。それまでとっていなかった間食や夜食を食べるようになるようなものです。

 普通の生活をして、朝の光を浴びる時間帯に朝食をとる。そのことは体にとって普通に良いわけです。


(後編につづく)





<JBPress 食の研究所 記事より>