次世代の電池技術



<マンガン>


音史のブログ-電池1


中国南部、広西チワン族自治区のシリコンマンガン合金工場で、手押し車に石炭を積む鉱員。石炭とマンガンはどちらも製鉄に欠かせない資源だが、マンガンはクリーンエネルギーにも一役買っている。日産リーフ、シボレー・ボルト、フィスカー・カルマの動力源、リチウムイオン二次電池の正極材料に採用されているのだ。

 古代、南米チリのアタカマ砂漠でミイラ作りに使用されていたマンガンは、その耐久性が蓄電においても望ましい特性と判明したのである。正極にコバルト酸リチウムを使うよりも、マンガンを材料としたほうが安定性が高い。コバルト酸リチウム二次電池は、家庭用電化製品に幅広く使用されているが、過熱により熱暴走に至る心配がある。「できることならすべての電池にマンガンを使用したいぐらいだ」と、米国エネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所の化学研究員クリスティン・ペーション(Kristin Persson)氏は言う。

 マンガンは比較的安価で資源量が豊富である。ただし産出地に偏りがある。世界の既知埋蔵量の約75%が南アフリカにあり、次いで中国とオーストラリアが多い。

 マンガンには電解液中に溶解するという重大な欠点がある。「正極材にマンガンを用いると寿命が低下する」とペーション氏は説明する。15年以上走行する自動車にとって耐久寿命は重要問題だ。「解決方法を求めて長年取り組んでいる」と同氏は語る。

 アメリカ、カリフォルニア州ニューアークにある新興企業エンビア・システムズ(Envia Systems)社では、ゼネラル・モーターズ(GM)ベンチャーキャピタル部門による出資の下、政府の助成金を受けながら、低コスト、高エネルギー密度の二次電池開発を進めている。マンガン系材料の正極材、シリコンと炭素を複合化したナノ複合材料の負極材の実用化を狙っている。

 2012年3月のアメリカ議会で、エネルギー省のエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)で当時局長を務めていたアルン・マジュムダール(Arun Majumdar)氏は、電池開発が重要な理由についてエンビア・システムズを取り上げた。同社が設計上の世界記録を達成したエネルギー密度(400ワット時毎キログラム)は、ワシントンD.C.からニュージャージー州までのガソリン代が40ドル(約3170円)のところを、6ドル(約470円)の電気代で済むという画期的な性能である。問題は、3万ドル(約240万円)という電池パックの価格だ。「ARPA-Eの目標は、電池の価格を抑えて選択肢を増やし、コスト面でもガソリン車と対抗できるようにすることである。助成金も不要になり、石油の輸入依存度も低下するだろう」とマジュムダール氏は述べている。

Photograph by Nir Elias, Reuters




<シリコン>



音史のブログ-電池2


数メートルの粘土層で覆われたチリのシリコン鉱山。酸化ケイ素の原石からシリコンだけを析出し、半導体の材料とする。また、リチウムイオン電池に使用されているグラファイト負極の約10倍のエネルギーを吸蔵する、前途有望な素材だ。

「シリコンの電極材は良いアイデアだ」と、米国エネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所の化学者クリスティン・ペーション(Kristin Persson)氏は言う。「世界中の至る所に豊富に存在し、地殻の4分の1以上を占める。また、半導体業界で培われた高純度シリコンの生産技術により、低コストで製造できるというメリットもある」。

 しかし、シリコンは充電時に膨張する欠点がある。「例えて言うなら風船だ。風船を薄くコーティングし、空気を入れて膨らませた後に空気を抜くと、その層ははがれ落ちてしまう。負極で失われた層は再形成する必要があるが、その分の材料が失われる。つまり、充放電を繰り返すたびにシリコンが減り、容量が低下してしまう」とペーション氏は説明する。

Photograph by Peter Ginter, Corbis




<銅>



音史のブログ-電池3


 チリ北部のアタカマ砂漠にある露天掘りのチュキカマタ銅山。100年間の稼働で発生した廃棄岩が扇形に広がり、面積は8平方キロ、高さは600メートルに達している。1911年から採掘が始まったチュキカマタは、銅が長期間にわたり極めて重要な金属であった証だ。 1800年に発明された世界初の電池でも、銅が正極として利用されている。銅を使う電池ははるか昔に時代遅れとなったが、銅ナノワイヤーの新技術が実を結べば、将来の蓄電デバイスの重要な役割を担うかもしれない。

 米国エネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所のクリスティン・ペーション(Kristin Persson)氏は、「銅は通常、電池の電極材ではなく電流コレクターとして利用される」と話す。「マンガンと同様、電解液に溶解する傾向があるからだ。さらに、価格も比較的高い」。

 しかし、アメリカ、コロラド州立大学の助教が創設した企業、プリエトバッテリー(Prieto Battery)は、通常のグラファイト負極の代わりに、銅とアンチモン化合物でできたナノワイヤーを利用する次世代リチウムイオンバッテリーの試作に成功した。同社によると、ナノワイヤーの細さは人間の毛髪の5万分の1。最先端のグラファイト負極材に比べて2倍のリチウムイオンを格納できるという。現在は数時間かかる電気自動車のフル充電を、わずか数分で完了できる技術につながると期待されている。

Photograph by George Steinmetz, National Geographic





<ナショナルジオグラフィック 記事より>