ミシシッピ川、干ばつで海水が内陸へ


 ルイジアナ州ニューオーリンズが災害のダブルパンチに見舞われる可能性が出てきた。今夏の干ばつがミシシッピ・デルタに影響を及ぼしているのに加えて、熱帯低気圧「アイザック」がメキシコ湾で強いハリケーンに発達するおそれがあるのだ。


音史のブログ-ミシシッピ川
干ばつの程度を示すミシシッピ川の2枚の衛星写真。

Images courtesy Jesse Allen and Robert Simmon, USGS/NASA


記録的な暑さと雨不足は、ミシシッピ川上流にあるアメリカ内陸部の農作物に大きな打撃をもたらしているが、それと同時に、海水の侵入を押し返す川の力をも弱らせている。

 南へ流れるミシシッピ川の淡水と、メキシコ湾の海水とは、川が海に注ぎ込むミシシッピ・デルタで常に縄張り争いの押し引きを繰り広げている。しかし、干ばつでミシシッピ川の流量が減っている今は、メキシコ湾の海水のほうが優勢だ。内陸に侵入する海水量の増加により、ニューオーリンズにおける真水の供給が危機に瀕している。

 対策として、アメリカ陸軍工兵司令部(USACE)は土台(sill)と呼ばれる水中堤防を810万ドルを投じて建設する計画を進めている。堆積泥を 190万立方メートルも積み上げ、ニューオーリンズ周辺の生活および工業用水としてミシシッピ川から淡水を取り込んでいるパイプに海水が流入するのを防ぐ計画だ。 

◆緊迫する水事情

 この地域は特に海水の流入が起こりやすいが、その理由の1つは、ミシシッピ川の最後の563キロがすでに海抜より低いところを流れているためだ。加えて、海水は淡水よりも密度が高いため、メキシコ湾の海水は常に川水の下にもぐりこみ、川底を這うように北上している。南下する川水の抵抗にあうため、海水はくさびのように先端にいくほど細くなっている。

 ミシシッピ川の水位が過去最低に迫るほど下がっているため(場所によっては通常より3メートル近く低い)、海水のくさびの先端が内陸深くまで到達し、ニューオーリンズが使用する淡水に混入する事態が懸念されている。

 ニューオーリンズ市の取水口は、ミシシッピ川本流がメキシコ湾に注ぐ手前で枝分かしているポイントから約153キロ北に位置する。そして、メキシコ湾から逆流している海水の先端部は現在、河口から145キロの位置にあり、市の取水口まであと数キロに迫っている。ただし、細くなっている海水の先端部が取水口に到達しても、取水口の高さには届かないため、まだ猶予はある。

 当局では、海水のくさびがあと32キロ前進し、取水口に海水が届くようになれば、ニューオーリンズの水はアメリカ環境保護庁の定めた水質基準を満たさなくなるおそれが出てくると予想している。

 海水流入の対策として、水中に土台を築くことは目新しい手法ではない。ルイジアナ州にあるチュレーン大学の水資源政策研究所(Institute of Water Resources Law Policy)所長のマーク・デービス(Mark Davis)氏によると、USACERは1980年代と90年代にも同様の堤防を築いてニューオーリンズの給水を守った経緯があるという。

 前進を続ける海水のくさびによって、すでにニューオーリンズ市より南にある町では新たな水源の確保を余儀なくされている。

 ニューオーリンズ市の南、ミシシッピ・デルタにあるプラークミンズ郡の長官ビリー・ナンゲッサー(Billy Nungesser)氏は、同地域における複数箇所の取水の塩分濃度が上昇していることを受けて、8月7日に非常事態宣言を発令した。プラークミンズ郡では現在、上流の土地から真水を配管や船で輸送している。取水への海水の流入がおさまるまで、住民には節水が要請されている。

◆迫るハリケーン

 現在不足している雨は、熱帯低気圧のアイザックがメキシコ湾で発達し、2005年のハリケーン「カトリーナ」のようにミシシッピ川付近に上陸すれば、すぐにも大量に降る可能性がある。

 そうなると、川のさらに上流まで海水が押し流され、ニューオーリンズにおける取水の塩分濃度が上がることはほぼ確実だと、USACERの緊急事態管理主任を務めるマイク・スタック(Mike Stack)氏は言う。

 しかし、悪いことばかりとも限らない。スタック氏は電子メールでの取材に対し、次のように述べている。「上陸したハリケーンがもたらす雨は、ミシシッピ川上流の谷にも降り、その水は川に流れ込んで上流の流量を増やすだろう。そうなれば海水を下流に押し戻すことができる」。





<ナショナルジオグラフィック 記事より>