安易な1日1食も「老けた」と言われる引き金に!


夏バテを秋まで引きずらない食事術







学生の頃、夏休みが終わってしばらくぶりにクラスメイトに会うと、急に大人の表情を見せるようになった子が、ひとりやふたりいたように思う。でも、社会人となった今、様子は変わった。夏が終わる頃になると、以前よりも少し老けこんだ、疲れた顔を見せる人が少なくない。




「ちょっと夏バテ気味で…」の裏側で、老化が着実に進んでしまう夏。なぜ夏に老化が進んでしまうかというと、紫外線によるダメージという外的要因もあるが、夏ならではの食べ方に起因するものが多い。ただ、暑い季節はどうしても食欲が落ちがちで、他の季節よりも食欲に支配されずにいられる分、意外と食生活をコントロールしやすいというメリットがある。






食事が冷たいジュース、麺類だけになっていないか


タンパク質不足で“夏老け”に




 暑くなると、朝は冷たいジュースくらいで済ませて、昼は麺類で簡単に。夜はその日の気分任せで、食べたければ食べるし、食欲がなければ「ダイエットになったりして」なんて淡い期待をいだきながら、適当にすませてしまいがちだ。冷たいものばかり摂ることも夏バテの原因とされ、こんな時期こそ温かいものを、ということもよく言われるが、正直、この暑さの中で外回りをしているようなビジネスマンに「温かい飲み物にしてくださいね」なんて、とても言えない。




 では、他の方法で夏バテの原因をケアするにはどうすればよいか。まず、きちんとタンパク質を摂ることが必須条件だ。この連載を毎回読んでくださっている方には、耳タコに違いないタンパク質。そして、タンパク質源に多く含まれるビタミンB群。これに疲労回復効果があることはすでにお話ししているが、夏、汗をかくとビタミンB群は消費されてしまう。さらに、食欲がなくて、口あたりの良いものを、と麺類やサンドイッチのような炭水化物主体のものばかり食べていると、そこに含まれる糖質をエネルギーに変える過程でビタミンB群をさらに消費してしまう。すると、身体の中はからっぽ状態。バテバテになるのは必至だ。そして、そんな夏の間のタンパク質不足は秋の抜け毛や肌荒れなどのトラブルを生んで、“夏老け”をしてしまう。







 食が細くなってしまう時期だからこそ、いつも以上に厳選して良質のものを身体に摂り入れたい。居酒屋にいったら、ぜひお刺身を注文していただきたいし、家の冷蔵庫には豆腐や納豆があるとうれしい。自宅の冷蔵庫代わりになっているかもしれないコンビニにも、豆腐や納豆は絶対にあるし、そばにのせるだけでもよさそうな、卵やツナ缶、ビールのあてになるスルメイカもおいている。




 ただでさえ食欲がないときに、冷たいものは食べないで、とはいわない。何も食べないでいるよりは、少しでも口にしてほしい。だからこそ、何を率先して口にするべきか、が大事だ。手にしたドリンクに、いかにも夏バテに良さそうなことが書いてあったとしても、砂糖がいっぱい入っていたら、それをエネルギーに変えるためにもビタミンB群を浪費してしまうことになる。疲労回復に、と思ったことが、かえって疲労を加速している可能性だってあるのだ。






食事の前にがぶ飲みをしていたら要注意!


夏にこそしがちな「間違った水分補給」




 そして、脱水症状にならないよう、適度な水分補給は大事だが、水分を摂るタイミングには気を付けてほしい。特に、食事の前にがぶ飲みする水分。そのタイミングで水分をとりすぎると、胃液が薄まり、その後の食事でせっかく摂った栄養の消化吸収力が低下してしまうからだ。ただでさえ夏は、外で汗をかいたかと思うとクーラーで冷えたり…その繰り返しで自律神経が乱れやすく、それに伴って胃腸のコンディションも落ちがちだ。胃腸のパフォーマンスをさらに下げることだけは避けたい。もちろん、ビールをおいしく飲むことだけを追求して、極限まで水分をとらない、なんていうことも…。




 胃腸は、ただの臓器ではない。ちょっと胃腸の調子が悪いな、と思うとき、それは想像をはるかに超えて、各所に影響を及ぼしている。免疫力があがれば夏バテをしにくくなるであろうし、夏カゼだってひきにくくなる。もちろん、秋まで夏バテをひきずるなんてことにもならないはずだし、長い目で見ると、いろんな場面で抵抗力が高まることになる。その免疫力アップには、免疫細胞の60%が集まる腸をきちんとケアすることが欠かせないファクターになるのだ。




 そんな胃腸のためにも、食前の水の摂りすぎには気をつけよう、と話したが、朝起きてコップ1杯の水(氷なしの常温、もしくは白湯がベスト)はとても良い。腸をふくむ全身の血流を促すことで、副交感神経を優位にして、消化吸収がスムーズに働くようになる。出かける前の水分は、熱中症にならないためにも必要だが、胃腸のコンディションをあげて、夏バテを遠ざけるためにも必要なのだ。







寒いところにいくと、きゅっと身体が無意識に縮こまってしまうのと同じで、冷たいものばかり食べることは、当然、胃腸の動きを弱めてしまう。そういった意味では、確かに冷たいものばかりとってほしくない。だから冷やし中華を食べても、サンドイッチを食べても、温かいスープも一緒に添える、という習慣をつくるといいだろう。1日中、口当たりの良いものばかりで済ませて、ただの夏バテではなく、うっかり免疫力まで下げないように気をつけよう。




 そして夏の老化を防ぐために、紫外線にも気をつけたい。紫外線によって身体の中で増える活性酸素は、皮膚細胞を酸化させ、シミやシワなどの肌老化の原因になる。海にでもいかない限り、男性が日焼け止めを塗る機会はほとんどないかもしれないが、それならば、身体の中からケアしよう。夏に旬を迎えるトマト、きゅうり、すいかなどは、抗酸化力が高い上に、調理しなくてもそのままいただける、ありがたい食材だ。冬に旬を迎えるごぼうやれんこんは、そうはいかない。夏は料理を一切しない人にとって、もっとも野菜が摂りやすい時期だといってもいいだろう。






「1日1食」で本当に健康になれる?




 ところで、ここ数ヵ月でもっとも質問されたことはというと「本当に1日1食っていいんですか?」がダントツだった。変なものを3食食べるよりは良いかもしれないが、実際に一般的な食事記録を見ている者としては、安易に1日1食にするのには不安を感じる。夏バテ防止、という視点からだけでも、1日1 食だけでバランスをとろうとするのは至難の業で、かえって栄養不足による体調不良になりやすいからだ。




 つい先日も、フェイスブックに「今日から健康のために1日1食をはじめた」と友人男性の書き込みがあり、その後、「クラクラする」「これ、つらいなー」「仕事に集中できないな」などと投稿が続いたので心配したが、「もうムリ、やめた」とあったときには、心底ホッとしたものだ。同じ1日1食でも、帰ったら栄養バランスの良い食事が待っている人の1食と、棚がガラガラになった深夜のコンビニで適当に食べたいものだけを買って済ます人の1食は、その効果が変わるのも当然だ。減らせば減らすほど、その1食の重みは大きくなる。ましてや、この暑い最中にいきなり始めるには、リスクが高すぎる。







 1日1食に限らず、本のタイトルや帯、電車のつり革広告や、キャッチコピー的な情報だけで食生活に摂り入れようとすると、せっかくの努力がネガティブに働く可能性が高いことを知っていてほしい。やはり、その健康法が書かれた本をよく読んで、できるところだけを取り入れるのではなく、押さえるべきポイントはきちんと押さえるべきだ。そうすると、ただ1日1食をすすめる本ではなく、誰にでも1日3食が良いとは限らないこと、つまり、良しとされる常識がすべての人にとって合うわけではないことや、空腹がもたらすメリットなどを伝えたいのだな、と本質的な部分が見えてくる。




 そして、その新しく摂り入れた方法が自分にとって必要なものかどうか、一番良く知っているのはあなたの身体なはず。自分の身体の声に耳を傾けなかった人ほど、ある日突然、ガクッときてしまうものだ。「ちょっと夏バテ気味だなー」をきっかけに食生活を意識して、自分の身体をもうちょっと楽にしてあげてほしい。












<DIAMOND ONline 食の研究所 記事より>