エアコンのこまめなオフは禁じ手、ドライ運転も要注意

ガマンしないエアコン節電術



梅雨が明けたら一気にうだるような暑さ。今年も厳しい夏がやってきました。昨年は関東、東北を中心に厳しい節電要請がありましたが、今年も電力需給がひっ迫。全国的に節電の態勢が敷かれています。特に関西電力管内では深刻な状況というのはご存じの通りです。

 本当に電力不足は起こっているのか、原発再稼働の是非など様々な議論はともかく、これからの私たちの生活を見直すという意味でも個々が節電に取り組んでいくことは必須です。


WとWhを子供に説明できる?

 節電を語る前に、消費電力(W)と消費電力量(Wh)の違いはしっかり意識したいところ。子供に質問されたら、正確に答えることができますか? まずは、「W」と「Wh」の違いをおさらいします。

 消費電力は「その製品を動作させるために使用する電力」で、消費電力量は「トータルで使用した電力量」。時速と走行距離の関係と同じと考えるとわかりやすいと思いますが、消費電力は使用しているその瞬間にかかっている電力(時速何kmで走行しているか)で、その製品を何時間か使用した時どのくらい電力を使用したのか(何km進んだのか)ということになります。

 単純に使用する電力量を減らしたいとか電気代を安くしたいということであれば、消費電力量を減らすことに徹すればいいのですが、今問題となっている電力の供給不足については消費電力の方に気を付けなければなりません。

 発電施設の電力供給能力は、日中も夜間もほぼ同じ。ですが、当然ながら人が活動をする日中の方が電力の需要は大きくなります。特に夏場の日中ともなればエアコンの使用などで需要の差が非常に大きくなります。

 電力はためておくのが容易でないため、夜間は電力が余っていても昼間に回すことはできません。そこで、今言われている電力不足に対応するには、ピーク時に集中して電力を使用することを避ける「ピークシフト」という考え方が大事です。

 夏の電力需要が急増する時間は朝9時頃。そしてそれは夜20時頃まで続きます。特に13時から16時までの時間帯は年間を通しても最大。この時間に、瞬間的に大きな消費電力がかかる製品、例えば電子レンジ、IHクッキングヒーター、ドライヤーなどの使用を避けると、ピークの山を低くできます。電力会社はピークの高さに合わせて供給力を決めており、ピークを下げることが電力不足の解消につながるのです。



音史のブログ-電力需要(夏)
夏期の1日の電力需要(最大需要発生日)

昼間、家にいる奥様が、エアコンをつけずに暑さをがまんしていたのに、ようやく外が涼しくなってきた夜に、帰宅したご主人が「この家、暑すぎるんじゃない?」と、エアコンのリモコンに手をのばしてスイッチを入れる。奥様のイライラは爆発、「私が電力不足に貢献しようと、どんな思いで我慢していたか、あなた、わかってるの!?」――。といった夫婦げんかの話を耳にします。奥様には気の毒ですが、ご主人の行動は電力不足には影響しません。

 夜間は比較的電力供給に余裕のある時間帯。もちろん余裕があるから無駄に使っていいということではありませんが、昼間と違い無理に節電する必要はありません。

 節電のために夜はエアコンを我慢して寝るという方もいますが、こちらもはっきり言って電力不足への貢献には意味なし。やみくもに消費電力量を減らすのではなく、昼間と夜とメリハリのある使い方で、ピーク時の電力需要を抑えることが大切です。


声で節電できるエアコン登場



音史のブログ-夏の14時頃
夏の14時頃の消費電力(全世帯平均)



エアコンを例にピークシフトを説明しましたが、これは、家庭における電力使用の中で重要なポジションを占めるからです。夏の日中に限定してみると、実に、5割以上がエアコンで消費しています。エアコンを制するものは、夏の節電を制するといっても過言ではありません。快適に節電するポイントを考えます。

 まず、エアコンの技術進化は目覚しいものがあります。省エネ性能はここ10年ほどで飛躍的に向上しており、製品によっては古いものと比較して年間の電気代が万円単位で変わるということも珍しくありません。

 今年のエアコンの傾向としては、人感センサーや赤外線センサーの搭載で人や部屋の様子を細かく感知しながら最適な運転をするものが主流。また、使用時の消費電力や電気代などを見える化し、より節電の意識を促すものも多くなっています。10年前の製品であれば、上位機種ではもちろんのこと、廉価モデルであっても買い換えによって相当な節電効果があります。

 東芝からは、ボイスコントローラーのついたエアコンまで登場しました。「節電」とよびかけると節電運転に切り替わります。最近のエアコンは、AV機器のように複雑になっています。その中で、誰にでも使いやすい音声でのコントロールを導入したというのはなかなか面白い視点だと思います。

 エアコン選びで注意したいのは、暖房機能を使用するか否かというところ。エアコンの省エネ性能は冷房時も暖房時も非常に向上してしますが、消費電力量は冷房時よりも暖房時の方が格段に多いため、冷房のみでしか使用しない場合には、そこまで劇的に電気代が削減できるかというと微妙です。


つけてから10分間の消費電力が最も大きい

 買い換えなくても、今使っているエアコンでできるだけ節電したい。そんなニーズも高いと思います。

 部屋が涼しくなってきたから節電のためにスイッチを切る、しばらくしてまた暑くなってきたからスイッチを入れる――。

 実は、こまめなオン・オフは節電には全くの逆効果です。エアコン使用時の節電でまず知っておきたいことは、立ち上がりの時の消費電力と、室温が安定してきた時の消費電力では大きく異なるということ。エアコンは常に一定の電力を消費する家電ではなく、つけてから最初の10分程度が一番大きく電力を消費します。それ以降安定した運転に入るとガクッと消費電力は少なくなります。そのため、いかに早く室温を設定温度まで近づけるかが重要です。

 部屋の広さに見合わない小さなエアコンを使用したり、立ち上がりの時から微風運転をするなど、安定運転までにより時間がかかる使い方だと無駄に電力を消費します。一番よくないのは、上の例のように、頻繁につけたり消したりを繰り返すことなのです。「こまめに消す」は節電の基本ですが、エアコンに関しては当てはまりません。


扇風機で体感温度は2度下がる

 エアコンの節電をしたい場合、設定温度に気を付けるのが一番効果的です。設定温度を1度上げれば消費電力量を約10%減らすことができると言われており、推奨される設定温度は28度。このくらいの設定温度で使用できるのであれば、室温が安定してきた時の安定運転時にはかなり消費電力は下がるため、夏の日中はエアコンを切るよりテレビを消した方が節電効果は大きいと言えます。

 しかし、28度設定で涼しくて快適になるかといえば微妙なところ。では、28度設定でいかに涼しく過ごすかということが重要になってくるのですが、その解決策は「体感温度」にあります。

 人が暑い寒いと感じる要素は、気温だけではありません。「気温」「気湿」「気流」「輻射」という4つの要素が合わさり体感温度は変わってくるため、やみくもに気温だけを下げれば快適というわけではないのです。

 まず気流。昨年は扇風機やサーキュレーターが飛ぶように売れましたが、エアコンと扇風機などを併用するのは合理的です。人は風がある状態だと体感温度が約2度下がると言われています。また、冷たい空気は比重が重く部屋の下層部に留まりやすいので、冷気を循環する目的でも扇風機やサーキュレーターの使用が望ましいいわけです。扇風機の消費電力量は製品によっても異なりますが、ほとんどの場合エアコンの設定温度を1度上げた時に減る消費電力量よりも少ないため、体感温度を下げるために有効な手段です。

 最近は高級扇風機が人気です。バルミューダのグリーンファンに代表されるDCモーターを搭載した扇風機のように、従来の扇風機の10分の1程度の消費電力でナチュラルな風を起こすことができるものもあります。一方、羽が無いスタイリッシュな扇風機も人気ですが、こちらは従来品と比較して残念ながら消費電力は高め。これからは、扇風機のような家電であっても消費電力や機能をしっかり比較検討して選びましょう。


 部屋の温度に大きく影響を与えるのは窓から入ってくる熱。日射による輻射熱を上手に避けることで、室内の温度は大きく変わります。

 日射をさえぎるというと、まず思い浮かぶのがカーテンですが、カーテンは部屋の内側から光や熱をさえぎるものです。外側が熱をさえぎることができれば、室内に入ってくる熱は少なくなるため、よしずやすだれを利用する方が効果大です。

日射により暖められた窓、床や壁から発せられる輻射熱もばかになりません。日中使用しない部屋や留守にする場合も、日射が当たらない工夫をしておきましょう。


ドライ運転は落とし穴

 そして最後の条件「気湿」。夏は除湿するのに、冬は加湿すると快適になる。なぜだか、説明できますか?

 実は、気温と湿度には深い関係があります。人間は不思議なもので、気温が10度をターニングポイントに感じ方が逆になります。10度を上回る場合、湿度は高ければ高いほど暖かく(暑く)感じられ、低ければ涼しく(寒く)感じます。夏は湿度が高く冬は乾燥する日本では、夏の除湿、冬の加湿が必須なのです。

 冷房は冷えすぎて苦手なのでドライ運転にしているという方、実は、節電ではここに大きな落とし穴があります。

 ドライ運転には「弱冷房除湿」と「再熱除湿」があり、機種により異なります。同じく「ドライ」と呼ぶ機能ですが、この両者で消費電力は倍くらい異なる場合があり、冷房よりも電力消費量が増えてしまうこともあるのです。

 弱冷房除湿の場合は冷房を弱くつけているのと同じような状態なので、冷房よりも若干消費電力量が少なくなります。再熱除湿が要注意。部屋の温度はほとんど下げないのは、弱冷房除湿と同じですが、再熱除湿はいったん冷やした空気をエアコン内部で暖め直してから吹き出しています。暖め直す分、冷房よりももちろん消費電力量が多くなります。

 最近はモーターの回転で発生する熱を利用して空気を暖め直して省エネを進めている機種もありますが、基本的にはヒーターで温め直していることに変わりはありません。その分の電力が余計にかかってしまうのです。

 ドライ運転は本来、梅雨時など肌寒いけど湿度は高いとか、冬場に洗濯物を部屋干しするときなどに使用する機能です。夏場部屋を快適に保つための機能とは考えず、夏の暑い時には冷房運転で設定温度を控えめに使用するのが正しい節電と認識してください。

 電力を使用しなければゼロですみます。それも確かに節電かもしれません。しかし、私たちの豊かで快適な生活を支えてくれているのは電力であることもまぎれもない事実。使わないという極端な節電に走り、生活に支障をきたしたり、体調を崩しては意味がありません。

 電気と上手に付き合いつつ合理的な節電を。この夏はぜひ意識してみて下さい。





<日経ビジネス 記事より>