銀河系中心部に巨大ブラックホールの種


日本の慶應義塾大学と国立天文台の研究チームは20日、太陽系から約3万光年の距離にある天の川銀河の中心部で、巨大ブラックホールに成長する可能性のある中質量ブラックホールの候補を発見したと発表した。



音史のブログ-ブラックホールの種
天の川銀河の中心部で発見された「塵に深く埋もれた巨大星団」のイメージ図。
中心では中間質量ブラックホールが生成されると考えられる。

Image courtesy Keio University



ブラックホールはこれまで2つのタイプが確認されている。ほとんどの銀河の中心にあると考えられる太陽の10万倍~100億倍という「超大質量ブラックホール」と、大質量星の超新星爆発後の重力崩壊あるいは巨大なガス雲の収縮によって生成されると考えられる太陽20~30個分の「恒星質量ブラックホール」である。この両者の間に、超大質量ブラックホール形成途中の段階として「中間質量ブラックホール」が予想されていたが、“候補”はいくつか見つかっていたものの、先頃そのうちの1つの「存在を確認した」とする研究が発表されたばかりだ。

 今回発見されたのは、中間質量(中質量)ブラックホールができる前の“ゆりかご”ではないかと考えられ、その形成過程の手掛りになると期待されている。

 慶応義塾大学の岡朋治准教授率いる研究チームは電波望遠鏡を用いた観測により、絶対温度50度以上で水素分子密度が1万個/立方センチの「温かく濃い」 4つの分子ガス塊を発見した。そのうち3つの分子ガス塊は膨張しており、超新星爆発によって引き起こされたと考えられる。

 チームは2005年から2010年までの長期間にわたり、南米チリのアタカマ砂漠に設置されたASTE望遠鏡(アタカマサブミリ波望遠鏡実験)と長野県野辺山にある望遠鏡を用いて同じ領域を異なる波長で観測し、その結果を比較することで、分子ガスの温度や密度の分布が明らかになった。

 その中から見つかった4つの分子ガス塊の1つは、天の川銀河の中心核である「いて座Aスター」を含み、太陽の400万倍という超大質量ブラックホールの周囲を高速で回転する円盤状構造をなしているとチームは推測している。

 残りの3つは、回転運動ではなく膨張運動の痕跡が見られ、ガス塊の中で起きた超新星爆発によるものだろうという。3つのうち膨張エネルギーが最大のガス塊は、そのエネルギーが超新星爆発200個分に相当する。またガス塊ができたのは約6万年前と見積もられる。つまり、300年に1回の頻度で超新星爆発が続いてきたことになる。通常なら銀河全体でも数百年に1回程度しか超新星爆発が起きないことから、このガス塊には多数の若い大質量星が集中した巨大星団が、直接は見えないが存在していると考えられる。

 膨張しているガス塊は、残り2つも同様に巨大星団が埋もれているものとみられる。これらの巨大星団の質量は太陽の10万倍以上で、天の川銀河の中で発見された最も巨大な星団と同規模だという。

 それほどの大星団がなぜこれまで見つからなかったのか、岡氏はこう解説する。「太陽系は銀河系円盤の外れにあり、天の川銀河の中心から約3万光年離れています。太陽系と銀河中心の間にある大量のガスと塵が、可視光線のみならず赤外線の透過をも阻んでいるためです。さらには、天の川銀河のバルジ部および円盤部にある無数の星も視線方向に重なります。そのため、どれだけ巨大であっても、天の川銀河の中心部にある星団を直接見ることは極めて難しいのです」。

◆超大質量ブラックホールの形成過程

 理論上、恒星の密度が高い星団中心部では恒星同士が相次いで合体し、太陽数百個分の質量を持つ中間質量ブラックホールが生成されると予想されている。中間質量ブラックホールは、星団とともに銀河の中心に沈降してゆくが、その途中で他の星団や他の中間質量ブラックホールとも合体を繰り返し、銀河中心に巨大なブラックホールを形成すると考えられる。天の川銀河の中心にある巨大質量ブラックホール「いて座Aスター」も、このような過程を繰り返して成長してきたものと考えられている。

 今後について岡氏は、「星団中の中質量ブラックホールを観測したいと考えています。いえ、実は、すでに我々の観測データにその痕跡が見つかっているのです」と話している。

 4つのガス塊の1つには、その中にさらに小さな高速で動くガス塊が含まれていた。小さなガス塊に回転運動が確認できれば、その中心に「見えない巨大な質量」、すなわち中間質量ブラックホールが星団中心に存在する可能性が浮上するという。

 今回の研究成果は、「Astrophysical Journal Supplement Series」誌オンライン版で6月23日に掲載された。





<ナショナルジオグラフィック 記事より>