魚群と風力発電、自然に学ぶエネルギー
フエダイの群れ(写真上)の形状には、抗力を減らし、効率を最大化する効果がある。V字型になって空を飛ぶガンと同じ原理だ。
アメリカ、カリフォルニア工科大学の生物工学者ジョン・ダビリ(John Dabiri)氏は、魚群から風力タービンの配列のヒントを得た。「魚の群れの最適な形状については、さまざまな知見が積み重ねられている」と話す。
下の写真は、広大な土地に並ぶのは垂直軸タイプの風力タービン。魚群を模したパターンで配置すると、間隔を狭めても後流が干渉しないという。「消費エネルギーの削減より、エネルギー生産の最大化を追求したんだ」と、生物発想エンジニアリング・センター(Center for Bioinspired Engineering)に所属するダビリ氏は説明する。風力エネルギーの単位面積あたりの生産力を増やす実験だが、実際に効率が10倍に跳ね上がったという。
この垂直軸タービンは、一般的なプロペラ型タービンより静音性が高い。高さもそれほどないため、渡り鳥の邪魔にならないメリットもある。
ただし、自然も万能ではない。ニューヨーク、アメリカ自然史博物館の2011年「ヤング・ナチュラリスト(若き博物学者)賞」は13歳のエイデン・ドゥワイヤ(Aidan Dwyer)君が受賞した。木の枝葉をモチーフにしたソーラーパネル配列が高く評価されたが、この「ソーラーツリー」をきっかけに生体模倣の限界に関する議論が活発になった。
ドゥワイヤ君は電力ではなく電圧を測定してパネルの効率を評価したが、これが問題となった。樹木の葉は太陽光の収集効率だけを考えて並んでいるわけではなく、「最も効率的なパネル配列」のモデルとしては不適当だという。カリフォルニア大学サンディエゴ校の環境エンジニア、ジャン・クレイスル(Jan Kleissl)氏はメール取材に対し、次のように答えている。「樹木は自重や風荷重に耐えなければならない。太陽光を集めることだけに集中し、平面的に進化していたら、強風でなぎ倒されてしまうだろう。生命を保つためには、全体のバランスも重要ということだ」。
クレイスル氏は、「自然が何もかも教えてくれるわけではない。受け入れがたいかもしれないが事実なのだ。人間は産業化を経て自然進化から逸脱してしまった」とも話す。
それでも生体模倣の支持者は、自然には学ぶべき点が多いと信じている。太古の昔から進化してきた自然の仕組みを現代文明に取り込むことが、エネルギー問題の解決につながるという。
Photograph by William R. Curtsinger, National Geographic (above); Photograph courtesy John O. Dabiri, Caltech (below)
<ナショナルジオグラフィック 記事より>