ルーシーと同時代の別種ヒト科化石発見






人類の遠い祖先「ルーシー」が数百万年前にアフリカ大陸の東端を歩き回っているところを、ほかの種の猿人が樹上から見下ろしていたかもしれないことがわかった。





音史のブログ-ルーシー

 発見された人類の祖先の足の薬指(写真、手の上)はサルのように長い。


枠内は他の指も含む足の一部。



Photographs courtesy Yohannes Haile-Selassie, Cleveland Museum of Natural History








エチオピアで、340万年前のヒト科の未知の種の足の骨が見つかった。この時代には、ヒト科の種(現生人類につながる種)としては、ルーシーという個体で知られるアウストラロピテクス・アファレンシス(アファール猿人)が唯一存在していたと考えられてきた。しかし、このほど発表された研究によると、発見された足の骨を組み合わせてみると、アファール猿人のものではなかったという。



 この足の断片的な化石は、ルーシーと同じ時代に、これまで知られていなかった人類の祖先が生活していたことを示すものだと研究者らは指摘する。



 ルーシーの骨格は直立歩行に適していた。直立歩行は人類の進化上、重要なステップだ。しかし新たに発見された同時代の種は、もう少し不安定な体をしていたようだ。骨の分析から、この足の持ち主は類人猿的な歩き方をして、かなりの時間を樹上で過ごしていたものと思われる。



 研究を率いたクリーブランド自然史博物館の人類学者ヨハネス・ハイレ・セラシエ(Yohannes Haile-Selassie)氏は、「いったん二足歩行へと進化した後の時代に、木登りの能力を持つ別の種が存在することは考えていなかった」ため驚いたと話す。



 この足の化石は、2009年にエチオピア、アファール地方のブルテレ(Burtele)地区で発見された。足の親指がほかの指から離れており、木に登って枝をつかむのに最適な形だと研究チームは指摘する。



 ほかの足指は、ヒト科と類人猿の中間的な形だが、薬指の骨が奇妙に長く、サルに近いという。



 しかしこの足には直立歩行的な特徴もある。例えば関節や骨端の形から、この種は足指を伸張でき、つま先で地面を押して歩くことができただろうと論文は考察する。



◆歩くための足ではない



 しかし、離れた親指のせいで歩行はルーシーほど効率的ではなかったとハイレ・セラシエ氏は指摘する。



 見つかったのは足の一部にすぎないため、このヒト科あるいはヒト族(ホミニン)が新種であるとは断定できないと研究チームは言う。ただ、「この時代に生きていたアファール猿人のものではない」ことだけは言えるとハイレ・セラシエ氏は話す。同氏の研究には、ナショナル ジオグラフィック協会の研究・探検委員会(CRE)が一部資金を提供している。



 しかし、この化石は、これより約100万年古い時代の人類の祖先の種、アルディピテクス・ラミドゥス(ラミドゥス猿人)のものによく似ている。



 この化石の足の持ち主は、地上ではぎこちないながらも二足歩行し、木に登るときは手足を使うという、ラミドゥス猿人によく似た移動法をしていたのだろうとハイレ・セラシエ氏は推測する。



 今回の研究に参加した、オハイオ州クリーブランドにあるケース・ウェスタン・リザーブ大学のブルース・ラティマー(Bruce Latimer)氏は、ラミドゥス猿人型の足がこれほど後の時代まで残っていたということは、人類の遠い祖先が完全な二足歩行へと進化するまでの道のりが、これまで考えられてきたよりもずっと長かったことを示唆すると話す。



◆歩行の進化は単純ではない



 ハーバード大学の進化生物学者ダニエル・リーバーマン(Daniel Lieberman)氏も、見つかった足の化石がラミドゥス猿人のものに合致するという考えに同意する。リーバーマン氏は今回の研究に参加していない。



「これはまったく同じ種類の足に見える。しかし100万年時代が下っている。つまり、ヒト族のこの系統は、アウストラロピテクス属が進化した後も絶滅せず、そこに同時に存続していたということだ」。



 しかしリーバーマン氏は、この発見に大騒ぎしすぎないようにと注意を促す。「しばらく前から、この地域では多様な足が見つかっている」からだ。



「これらすべての化石が示唆するのは、進化の過程が非常に複雑だったということだ。この発見は従来の説を覆すものではなく、そこに何かを付け加えるにすぎない」とリーバーマン氏は話す。



 たとえそうだとしても、新発見の足は、300~400万年前に人類の複数の祖先が生きていたことの最初の物的証拠だと研究チームは考えている。



 ルーシーと同じ時代に生きていたかもしれない人類の祖先の候補がもう1種ある。ケニアントロプス・プラティオプス(Kenyanthropus platyops)だ。



 しかし、ケニアントロプス・プラティオプスの化石断片をつなぎ合わせた頭骨は歪んだ状態で、ハイレ・セラシエ氏によると、アファール猿人のケニア変種にすぎないと考える研究者もいるという。もしそうなら、今回発見された足が、ルーシーの時代に別のヒト科の種がいたことの最良の証拠となるだろう。



 この研究は「Nature」誌のオンライン版に3月28日付けで掲載された。










<ナショナルジオグラフィック 記事より>