シマウマの縞には防虫効果もある?



シマウマの白黒の縞模様は、背の高い草の中でカモフラージュの役割を果たし、色の識別能力が低いライオンから身を守るのに都合が良いというのがこれまでの定説だった。しかし新たな研究により、この模様がもっと小さな天敵、吸血アブの視覚を混乱させることが判明した。


音史のブログ-シマウマ
細かい縞模様は特にアブを遠ざけるのに有用で、
シマウマの顔周辺の繊細な皮膚を守っている可能性がある(資料写真)。

Photograph by Chris Gray, My Shot



メスが動物の血液を餌にしているアブには、偏光に引き寄せられる性質がある。偏光とは、特定の方向にのみ振動する光の波で、目に入るとぎらつきを覚える。アブはこのぎらつきに引き寄せられるが、これはこうした偏光がアブが産卵場所にしている水たまりの反射光に似ているためである可能性が高い。

 通常のウマの場合、毛色の黒いウマは茶色や白のウマと比べて偏光の反射効率が高いことが、進化生態学者のスザンヌ・オーケソン(Susanne Akesson)氏らによるこれまでの研究により判明している。

 この研究結果から、白と黒が縞模様になっているシマウマの毛色は、黒いウマほどアブを引き寄せないが、白馬よりは引き寄せるものと推測されていた。

 しかし研究チームが縞模様の板やウマの形をした模型を使い、これに引き寄せられたアブを粘着性の物質で捕らえてその数を数えたところ、シマウマの縞模様が最もアブを遠ざける効果が高いことが判明した。しかも縞が細ければ細いほど、防除効果が向上するという。

 この結果は、シマウマの身体の中でも顔周辺と脚の縞が特に細い理由を説明してくれるかもしれない。「これらの部位は最も皮膚が薄い箇所でもある」とスウェーデン、ルンド大学のオーケソン氏は解説する。

 しかしなぜ縞模様が、偏光の反射度が最も低い白い毛色よりもアブを遠ざけるのに効果的なのだろう?

 オーケソン氏によれば、白黒の縞模様は「反射された偏光という特定の波を散乱させる機能において最も効果的」であることが判明したという。

 シマウマの毛皮に光が当たると、その反射光は模様に従って交互に偏光と非偏光となるため、「周囲の環境にまぎれ、個体の識別が難しくなる」という。実際、この模様は大型のネコ科動物に加え、アブからも身を隠す手段となっているわけだ。

◆縞模様のウマがいない理由

 オーケソン氏率いる研究チームは、今回の実験が行われた場所がアフリカのサバンナではなくハンガリーだったこと、また実験に使われたのは本物のシマウマではなく、模型だった点を注記している。そのため、この研究の結果をもって、シマウマが縞模様を持つ理由を完全に解き明かしたとは言えない可能性がある。

 本物のシマウマの場合、その吐く息や体温がアブを引き寄せる第2の誘因となり、縞模様の防御機能を上回ってしまう可能性もあると、オーケソン氏は注意を促している。それにしても、こうした縞模様に本当にアブを寄せ付けない効果があるのなら、なぜシマウマと進化的に近い通常のウマには、縞模様を持つものがいないのだろう?

 オーケソン氏はこの疑問に対し、より気候が温和な他の地域に比べて、アフリカではアブの数も種も多いことが影響しているのではないかとみている。シマウマはアブを寄せ付けないように進化する圧力が高かったとも考えられるというわけだ。

 また、ウマの現生種は人間による品種改良が進んでおり、これによりそもそも持っていたアブを防除する特質が失われた可能性もあるとオーケソン氏は指摘する。「我々人間は、自分たちの好みの毛色を作りだしたかもしれないが、それが自然の中で有利に働くものとは限らない」。

 シマウマの縞模様に関する今回の研究成果は、「Journal of Experimental Biology」の3月号に掲載された。




<ナショナルジオグラフィック 記事より>