全国民必読 必ず来るM8M9大地震
その瞬間、あなたがとるべき行動を教えます(前篇)



スカイツリーにいたら/モノレールに乗っていたら/アクアラインを走っていたら/地下鉄に乗っていたら/東京ドームにいたら/高層ビルのエレベーターにいたら/ガード下の飲み屋にいたら/富士山登山をしていたら------そのとき、あなたとあなたの家族の明暗を分けるのは「知識」だ

 首都圏を必ず襲う巨大地震。そのとき何が起こるのか。私たちがとるべき行動とは何なのか。場所や状況ごとに詳細に見ていこう。


■スカイツリーにいたら

 六本木ヒルズや東京都庁などの高層ビル群は東京のシンボルとも言えるが、3・11の際には振幅3~4mの揺れが5分以上続いた超高層ビルもあった。

 ちなみに、代表的な高層建造物である東京都庁では、3・11の際、スプリンクラーの損傷、天井の落下、壁パネルや防火戸の脱落などが起きている。

 地上634m、世界最高の電波塔・東京スカイツリーではどうか。都市防災に詳しいまちづくり計画研究所所長の渡辺実氏は言う。

「3・11では人的被害がありませんでしたが、あの日いたのは訓練を受けた作業員たちで、開業後は違う。

 もちろん最新の制震・免震技術が組み込まれていますが、揺れないというわけではない。展望台の売店の陳列棚やレストランのテーブルなどがしっかり固定されていないと動き出し、重いものなら当たった人は内臓破裂の可能性もある」

 東武タワースカイツリー株式会社広報宣伝部によると、展望台に設置される設備には対策を施す予定というが、最上階に展望台やレストランを持つ他の超高層ビルでは、まだこうした危機意識は薄い。

 東京都庁にも展望室があるが、「約100席のイスのうち90席は固定されていません。30脚のテーブルは、すべて固定されていません」(南展望室カフェ)、「イス70席、テーブル20脚は、すべて固定されていません」(北展望室レストラン)。

 スカイツリーや都庁などの展望台で地震に遭ったときとるべき行動は2つだ。

「第一は、窓から離れること。第二は、高層建築物は構造的に中心にあるエレベーターシャフト部分が強いことが多いので、その周囲にある非常階段などの手すりを目指す。展望台に入るときは、まずその位置を確認しておくとよいでしょう」(前出・渡辺氏)


超高層では中心に逃げる

■高層ビルの下にいたら

 東京理科大学理工学部建築学科教授の北村春幸氏は超高層ビルの周辺にいる人も注意が必要だという。


「地震が首都圏の直下型ではなく、房総沖地震や東海地震など遠くの海底で起こった場合、特に心配なのが長周期地震動です。これはゆっくりとした、周期の長い揺れで、高層建築物を非常に大きく揺さぶります。

 外壁や窓ガラスは、ある一定量の揺れまでは落ちないよう設計されていますが、実際はどうなるかわかりません。落下の可能性がないとは言い切れない」

 都庁を管理する東京都財務局建築保全部庁舎整備課にこの点を質問すると、「都庁は構造上、窓が外壁と一体化しているので、基本的には落ちることはない」との回答だったが、北村教授はこう助言する。

「超高層ビルは耐震設計がなされているので、近くにいたら、むしろ建物の中に入ったほうがいい。ガラスなどの落下物があっても大丈夫だし、低層階はそれほど揺れません。コストをかけて建てているものなので、普通の建物より安全です」

 一方、多くの人の住居や職場があるのは、最新式の超高層ビルより、低層・中層の古いビルだろう。特に'81年5月以前に着工された旧耐震基準の建物は、大地震で大破する恐れもある。だが、建築ジャーナリストの山口安平氏によると、

「資産価値が下がるのを嫌って耐震診断を受けず、改修費用が出せずに放置している所有者が多い」。

 前出の渡辺氏は、「特に新橋、神田、上野のように早くからビル街だった地域にはまだ危険な建物が多く、建物が大きく傾いて、看板やネオンが降ってくる可能性も高い」という。

 超高層ビルとは逆に、これらの古いビルからは速やかに離れるべきなのだ。


■スカイツリーや高層ビルのエレベーターにいたら

 高層建築にエレベーターはつきものだ。東京スカイツリーなら定員40名のエレベーターが4基設置されている。東芝が開発した日本一の速度を誇る特注品で、平常時は床に立てた500円玉が倒れないほど振動も少ない。品質は折り紙付きだが、問題は運転中に巨大地震に遭った場合だ。

 通常、高層ビルのエレベーターは、地震を検知するともっとも近い階に止まる。だが第一展望台まで地上から350mあるスカイツリーや、「高層階専用」などとスキップする階のある六本木ヒルズなどのエレベーターでは、その「最寄り階」が非常に遠いこともある。

「巨大地震で東京が被害を受け、同時にたくさんのエレベーターが不具合を起こせば救助の手が回らず、救出の難しい途中階の出入り口がない区間に閉じ込められた人々は数十時間、待つことになるかもしれません」(前出・渡辺氏)

 ちなみに、まだその位置などは公開していないが、スカイツリーではこの問題を避けるため、地上と第一展望台の間に「エレベーター1基につき、7ヵ所の非常着床用出入り口があります」(前出・広報宣伝部)。

 ここから非常階段を使用して逃げることになる。


■アクアラインを走っていたら

 東京湾を横断する東京湾アクアライン。川崎側から9・6kmは海底トンネル「アクアトンネル」、木更津側から4・4kmは海上橋「アクアブリッジ」が延び、中間地点の人工島「海ほたる」で接続している。

 災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏によると、アクアラインには阪神淡路大震災の反省を活かして、大地震に対する最大限の対策がなされている。

 たとえばアクアトンネルはシールドトンネルと呼ばれる強固な構造の中に、特殊な防水処理が施され、破損・浸水・水没はまず起こらない。となれば、不安視されるのはトンネル火災だ。

 アクアトンネルで火災や煙から身を守るためには、まずトンネルの地下に設けられている緊急用の床板下避難路に逃げこむことだ。

 避難路に通じる非常口は300mおきに設置されており、すべり台などで車道の下に移動できる。内部は気圧が高めに設定され、炎や煙は入りにくい。

 緊急車両の走行もできる幅の広い避難路には150mおきに非常電話も置かれ(携帯電話はほぼ不通)、長い道のりだが地上にも出られる。


■先頭車両に乗らないこと

 では地震の瞬間、橋梁部のアクアブリッジにいた場合はどうか。じつはここに限らず、レインボーブリッジなど首都高速道路の橋梁には、阪神淡路大震災以降、ある工夫が施されている。

「落橋防止システムといって、震動で道路部分(橋梁)がずれて橋脚から落ちることを防ぐため、ケーブルで橋梁同士を結ぶなどして、関東大震災や阪神淡路大震災の揺れにも耐えられるようにしています。首都高の高架も同様です」(首都高速道路株式会社広報室)
しかし、レインボーブリッジやベイブリッジの計画にかかわった東京大学大学院工学系研究科の藤野陽三教授によると、

「『どんな地震でも絶対に安全だ』とは言えません。橋の場合も構造物が長いので、長周期地震動がくると厳しい。レインボーブリッジは吊り橋なので、壊れても橋げたがぶら下がるだけですが、ベイブリッジは斜めに橋げたを引っ張り上げていて、常に力が加わっている。地震でその力が強くなり、橋げたが潰れてしまうことを恐れています」

 では、ドライバーはどうしたらいいのか。もっとも大事なのは、トンネルでも橋の上でも慌てて急ブレーキをかけないこと。追突事故や玉突き事故から火災が起これば、前後の車に延焼し、道路が「火の川」になる可能性があるからだ。基本は、ゆっくり減速して車を片側に寄せ、停止する。橋の上から振り落とされないよう注意しつつ極力、車内で待機し、交通情報に従って避難しよう。


■新幹線・JR在来線・モノレールに乗っていたら

「その瞬間、身を守るためには、手すりなどに掴まり、体が前に押し流されるのを防ぐことです」と言うのは前出の和田氏だ。

 地面から強く突き上げる揺れが襲う直下型だった阪神淡路大震災では、地上を走るJRの在来線などで脱線・転覆が発生した。

「首都直下型地震による脱線・転覆の想定で参考になるのは、JR西日本福知山線の事故です。事故調査委員会の報告書によれば、死者107名の死因は、ほぼ窒息と圧死。しかも死亡者は先頭車両から2両目までに集中している。

 車両が速度を落とせず脱線すれば、側壁などに衝突した瞬間、車両内で人が流体のように前方に押し流され、強く叩きつけられます。体が移動することが危険なので、車両内では戸袋近くの手すりに掴まるか、座席に座るほうがいい。さらに私は、日頃から後部車両に乗るよう心がけています」(前出・和田氏)

 もし地震が直下型ではなく、遠くの海底などが震源だった場合、鉄道の脱線・転覆は起こりにくい。

 新幹線なら、なおさらだ。

 こうした地震では、まず速く伝わる小さな縦揺れ(初期微動)が到達し、次に大きな横揺れ(本震)がやってくる。新幹線は、この時間的余裕を利用する。

 たとえば東海道新幹線は、独自のシステム「テラス」で初期微動を検知すると、約2秒後には変電所からの送電が止まり、自動的に列車を減速させるシステムになっている。

 さらにレールには新潟県中越地震以来、脱輪防止システムの設置が進められ、万が一、片方の車輪が浮き上がっても車体が軌道から横ずれして脱線しにくい。

 一方、高架を走るモノレールには不安はないのか。

「日本の主なモノレールは跨座式といって、車体がレールの上にまたがる構造なので落下の可能性は低い。

 ただ、'64年の東京オリンピックに合わせて作られた東京モノレール羽田線の橋脚は、当時まだ液状化現象が知られておらず、対策がとられなかった。もし橋脚が数度でも傾くと走行不能となり、乗客は長時間、車内に閉じ込められます」(前出・渡辺氏)

 車両が運河の上で止まるようなことになれば、救出はいっそう難しくなる。

「羽田に行くには京急線もあり、大変な費用をかけて改修工事をした。私は京急を使っています」(渡辺氏)



                                   (・・・・・・・・・続く)





<現代ビジネス 記事より>