X線照射でアルミ片を200万度に加熱



 史上最強のX線レーザーによって、アルミ片を摂氏200万度まで加熱する実験が成功した。地球上で最も高温度に達した物質が生まれたという。


音史のブログ-X線
X線照射でアルミニウムを“高温・高密度物質”に変換した実験装置。

Photograph courtesy Sam Vinko, University of Oxford



これ以上の高温は、太陽や核爆発の中心部などにしか存在しない。しかし、宇宙レベルの超高温は研究チームにとって副産物にすぎなかった。

 本来の目的は、広大な宇宙空間に広がるプラズマを研究する手法を完成させることである。プラズマは電離した陽イオンとそれとほぼ同数の電子から成る気体。他の気体とは異なり、電気を通し、磁場に応答する。

「真空中に拡散する希薄プラズマは検出が難しいが、古くから研究されてきた」とアメリカ、カリフォルニア州サンマテオにあるSLAC国立加速器研究所での実験に参加した物理学者リチャード・リー氏は言う。

「そこで、今回の実験では“高温・高密度物質(Hot Dense Matter)”など高密度のプラズマを対象にした」と同氏は説明する。「実験で得られたデータを基に、コンピューターモデルを改善する。希薄プラズマと高密度プラズマの中間スペクトルにおける振る舞いの解明につながるだろう」。

◆X線照射により物質が火山のように噴出

 高温・高密度物質を生成するために、チームはSLACの自由電子レーザー装置「LCLS(線型加速器コヒーレント光源)」を使用した。

 LCLSは、世界で最も強力なX線パルスを高速で発振できる。血液細胞の直径の3分の1ほどの小さな点にレーザーパルスを照射することが可能だ。

 パルスを照射すると、試料の上部は加熱されず、内部から外に向かって均一に気化する。「ターゲットは火山のように一気に噴き上がる」とリー氏は話す。

 この非常に強力なレーザーパルスを切手サイズのアルミ箔に高速かつ均一に照射して、プラズマ状態に変換。この実験を何度も繰り返し、まだ十分に解明されていないプラズマの振る舞いに関するデータを大量に収集した。

 チームは現在、これらのデータを基に高密度プラズマと希薄プラズマの中間に存在する種類について予測を立てている。おそらく“温かい高密度の物質”だという。研究が進めば、太陽内部や木星のような巨大ガス惑星の核内で起きているプロセスの解明に役立つとされる。

 また、核融合発電にも役立つ可能性がある。核融合発電は、2個の軽い原子核の融合によって放出されるエネルギーを取り出す技術で、クリーンなエネルギー源として実現が待ち望まれている。

 例えば、カリフォルニア州リバモアにある国立点火施設(NIF)では、レーザーを使用してターゲットをプラズマ化し、核融合を引き起こそうとしている。

 しかし、核融合の点火には、レーザーの調整方法をまず編み出す必要がある。核融合反応を実際に行った場合、“温かい高密度の物質”が出現する可能性があり、それを制御しなければならないからだ。

 今回のSLACの実験によって、NIFの装置改善に必要なデータが得られるかもしれない。

 また、強すぎるX線レーザーは物体を破壊してしまうが、エネルギー上限を設定できるようになる可能性もある。貴重な人工遺物などを破壊することなく、奥深くまで詳しく調査できると期待されている。

「今回の実験ではX線レーザーでターゲットを破壊した。しかし、非破壊で透視する用途の方が要望が多いだろう。つまり、X線を使用して物体を燃やさずに透視できるスーパーマンのような能力だ」。

 今回の研究成果は、「Nature」誌オンライン版に1月25日付けで掲載されている。





<ナショナルジオグラフィック 記事より>