震災は消費者をこう変える

3つの新常識を見逃すな


 東日本大震災は日本の消費をどう変えるのか? ボストンコンサルティンググループ(BCG)は、震災後1カ月経った時点で、直接の被災地を除く全国で、約3000名を対象に消費者意識調査を実施した。そこから、企業はいま、「いつ消費が戻るか」より、「今後消費がどのように姿を変えるか」を考えなくてはならないということが浮き彫りになった。

 2008年9月に起こったリーマンショックにつづく景気後退期に、低迷から回復した後、経済はそれ以前と別物になり、それが定着するという「ニューノーマル」の概念が生まれた。実際、消費の世界でも、グローバル規模で、低価格志向、バリューブランド志向やチャネルスイッチなどが、不可逆的な変化として定着している。

 それと同様、今回の大震災は日本の消費者に大きな変化をもたらすと考えられる。どう変わるのか。今後の定点観測で継続的に検証していく必要はあるが、大きく3つの変化が起こると考えている。

長期トレンドになる「賢い消費」

 第一の変化は「賢い消費」だ。この背景には、震災による大きなストレスがある。関東では85%、全国でも75%がストレスを感じている(図表1)。内訳を見ると、最も高いのは、(東北を除き)関東に住む女性の91%、低いところでも中部近畿に住む男性の58%という結果である。中部以西まで影響が広がっているのはなぜだろうか。それは、ストレスの要因が「将来に対する不安」であることによる。「放射能への不安」「震災の恐怖」「停電に対する不安」は関東で高い。



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 そして、このストレスは長期にわたり継続する可能性が高い。今回の調査では6割が、いま感じているストレスについて「今後もなくなることはない」「原発事故が解消しても当分の間は続く」と答えている。

 今回の調査では、6つの消費トレンドが見えてきた(図表2)。それぞれ一言で表すと「節約」「巣籠り」「リスク分散・回避」「癒し」「省エネ」「安心・安全」、である。このいずれも、根底には「将来に対する不安」がある。よって、震災の直接の影響と共に「短期で収束するもの」と、獏とした不安に基づき「不可逆的に長く続くもの」に分かれることが想定される。


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短期的なトレンドとしては「節約」と「巣籠り」の二つが挙げられる。今回の調査では、関東では40%の消費者が「消費を自粛すべき」「節約している」と回答し、節約のトレンドが顕著に現れている。年代別では、特に60代以上の可処分所得が大きい層へのインパクトが大きく、60代では半数近くが贅沢な国内旅行への支出を「大きく減らす」「少し減らす」と答えている(図表3)。消費分野別では、旅行、娯楽、外食などの分野で支出が抑制されている。一方、ネットショッピングの意向は若干上昇している(図表4)。



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また、関東では約半数の人が「家で過ごす時間が増えた」と回答している。特に女性ではその率は6割にのぼる。家で過ごす「巣籠り」の時間と消費は、趣味やTVなどの娯楽だけでなく、読書や資格の勉強などの自己研鑽、さらにはネットショッピングなどに向かうと思われる(図表5)。



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 この2つのトレンドは比較的早く収束すると考えられるが、残りの4つのトレンド、「リスク分散・回避」「癒し」「省エネ」「安心・安全」については、5割から6割が長期に続くと答えている。省エネに関しては既に関東で9割以上、全国でも8割以上の消費者が節電を行っており、大半が今後も継続する意向を示している。安心・安全に関しては、約6割の消費者が食品の安全性についての意識が高まったと回答し、半数以上は放射能問題が解決しても当分の間は注意の姿勢を崩さないとしている。


 企業の視点から見ると、経済回復を睨みつつ、新しい事業モデルを構築するチャンスがある。実際、地震をきっかけにさまざまな商品に新たな関心が高まっている。以前から着目されつつあった「所有のリスク」が明らかになったことを背景に、カーシェア、クラウドサービス、賃貸住宅などへの関心がますます高まっている。また、発電・蓄電・省エネ商品には支払い意向が高まっており、日本の家庭への導入をいち早く進める中で、グローバルでも競争力のある技術や事業モデルを創出するチャンスもあるだろう。

中高年に広がる「ツイッター」

 第二の変化はメディアに起こりつつある。ツィッターの利用者数は、震災直後に直前の560万人から750万人に一気に増えた。背景として、インターネットのインフラとしての価値が見直されたことに加え、政府が公共機関にソーシャルメディアの活用を推奨したことがあるだろう。今回の調査では、約1割が「震災を機に使い始めた」「震災前は興味がなかったが今後は使ってみたい」と回答している。特に、50代~60代の消費者ではこの割合が13%と平均を上回る(図表6)。




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 ソーシャルメディアの利用者は、既存メディアの情報が古い、内容が限定的、という感想を持っている。また、企業のCM広告については、商品の機能よりも、企業や商品の安全性を重視するという傾向が強い。

 これまでも、口コミは、消費者の情報源として信頼性が高かったが、震災以降は、ソーシャルメディアの普及により、その伝達スピードと範囲が飛躍的に高まる可能性がある。企業としては、従来のマーケティングミックスや内容について、大きく見直すことが求められるだろう。

 第三の変化は、ソーシャルマインドの高まりである。3割の回答者が、震災を経て「日本をより好きになった」と答えており、「日本が嫌いになった」の7%を大きく上回っている。今後積極的に寄付を行う、ボランティアを行うという回答者も、それぞれ32%、16%となっている。また、約8割は、日本や東北の商品を積極的に支援したいという、いわば「Pro-Japan/東北」の意向を示している。

 このソーシャルマインドが向かう先、特に、企業にとっての意味は広範にわたると思われる。長年の景気低迷で、消費者の財布の紐は堅い。先に触れたマーケティングという面でも、企業の姿勢の打ち出し方がますます問われるであろうし、また、新興国で見られるようなNPOやNGOと連携したソーシャルマーケティングが日本でも拡大するかもしれない。さらには、人材の採用や維持という面でも、こうした領域への企業の取り組みいかんで大きな差が生じてくるだろう。

 震災をどうとらえるかにより、企業の競争力に非連続の変化が生じる可能性は高い。

さらに高まるソーシャルマインドと環境意識

 BCGの過去の環境関連商品に関する消費者調査では、日本の消費者は環境への関心が高い一方で、「異常気象を止めるためにライフスタイルや行動を変えた」「自分の個人としての行動が環境を守ることにつながる」と考える人の割合が4分の1程度にとどまるなど、環境を自ら守るという点では、いささか「他力本願」とも言える特徴を見せていた。

 だが、今回の震災を機に、日本の消費者の環境への意識やソーシャルマインドが目覚め、今後中長期的に行動を大きく変えることにつながる可能性は高いのではないか。消費者マインドの変化を注意深く見て、中長期の戦略を適切に再構築できた企業は、震災からの復興や経済回復に寄与するだけでなく、グローバルでも存在感のある企業として競争力を大きく高めていくことになるだろう。

<消費者調査の概要>

実施時期:2011年4月8日(金)~4月10日(日)

調査方式:ウェブアンケート

回答者数:合計3,091人

(秋田/山形:103人、関東(除く茨城):2,060人、中部/近畿:618人、中国/四国/九州/沖縄:310人。20~69歳の男女で、男女比、年齢構成比は人口構成比と同率。)




<日経ビジネス記事より>



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