中国企業へのパソコン事業売却を模索するNECの事情

国内トップでも世界シェアは0.9%


音史のブログ-Lenovo

 かつては「PC98」で一世を風靡し、今でもパソコンの国内市場ではトップシェアを持つNECがその事業を中国最大手のレノボに売却することで最終調整している。具体的にはパソコン事業の子会社であるNECパーソナルプロダクツにレノボから過半数を超える出資を受ける見通しであり、主導権はレノボに移ることになるだろう。レノボは6年前、米IBMのパソコン事業を買収したことで一躍世界的に注目を浴びた企業である。

 なぜ、NECが国内トップシェアを保有し、しかも黒字である事業を売却するのか。この本質的な理由を突き詰めていくと、日本の多くの企業が抱えている共通の問題点に突き当たる。

 NECのパソコンの国内シェアは約18%だが、世界ではシェアが0.9%しかなく、トップ10にも入っていない。少子高齢化で国内市場は大きな伸びが期待できないうえ、東芝や富士通など強豪メーカーがひしめき合い、量販店での薄利多売の競争になっている。国内では現状維持が精一杯であろう。

 赤字ではないが、使っている人・モノ・カネといった経営資源の分量から見れば決して効率の良い商売ではない。ROA(投下資本利益率)が低すぎる事業なのだ。赤字事業であるならば、ばっさりリストラもできるが、黒字であるがためにそれもできにくい。

 こうした事業では「既得権」意識が生まれやすく、会社の経営資源を組み替えて新しいビジネスを構築していく際の「抵抗勢力」になる。そして何よりも問題は、パソコン事業がNECには残された数少ないブランドを認知してもらえる商品であり、これを手放すと顧客への存在感がさらに低下する可能性があることも改革を遅らせる要因のひとつになる。

 過去、日本企業の事例では日産自動車が1999年に始めた「リバイバルプラン」で、赤字ではなかった航空宇宙事業をIHI(石川島播磨重工業)に売却し、将来性が見込めた自動車事業に経営資源を集中し業績を回復させたケースもある。

11人抜きで抜擢された新社長の決断

 NECを取り巻く経営環境は厳しい。このままでは「余命2年」といった見方もあるほどだ。パソコン事業は黒字でも会社全体の業績は沈む一方だ。2011年3月期連結中間決算(2010年4-9月)では大手電機メーカー8社の中で唯一、最終赤字270億円を計上している。他社が収益を回復さていたのとは対照的だった。

 NECが赤字の大きな要因は、収益を引っ張る柱となる事業がないためだ。また、NECはリストラの過程で海外事業を縮小してきたため、外需にも依存できない。

 昨年4月、11人抜きで常務から社長に就任した遠藤信博氏はパソコン事業の売却を決断した。遠藤社長は、社内の既得権を排し、経営資源を組み替え、スマートグリッドやクラウドコンピューターなど収益性の高さが見込まれる新しい事業に挑戦していくつもりなのだろう。そうした意味では、看板商品のビジネスの主導権を外資に渡してまでの取り組みは、「NEC第二の創業」と言えるのではないか。

 実際、昨年2月25日に社長交代と同時に発表した新中期経営計画の説明会では、遠藤氏が、売上高に占める海外の比率を09年度の19%から12年度に25%に引き上げる方針を示した。さらに将来的には50%に高めていく考えだ。「この計画がうまくいかなければNECは競争で生き残ることはできない」(幹部)と社内の一部にはかなり危機感がある。

人事制度が最大の抵抗勢力

 遠藤氏自身が、海外と新規事業といった2つのキーワードで成功体験をもつNECでは数少ない人材だ。携帯電話の基地局を繋ぐ通信装置の「パソリンク」を担当していた事業部長時代に、国内事業の赤字を跳ね返すためにインドに進出し、そこで販売を増やし、世界シェアを獲得した経験をもつ。こうした成功体験をベースにNECの企業体質の変革に遠藤氏は取り組もうとしているのだろう。

 こうして遠藤氏はパソコン事業の売却を皮切りに社内改革に取り組む計画だが、最大の「抵抗勢力」がNECの人事制度なのだ。端的に言えば、優秀な人材を各事業部門が囲い込み、新規事業に挑戦させないような風土を根付かせるような人事制度がNECには残っている。

 遠藤氏はそこにも大ナタをふるおうとしている。改革の先駆者である日産自動車に人事制度の構築で教えを乞うてもいる。この話にはついては、現在発売中の「週刊現代」の「ああ、人事部の人事知らず」の中で詳細を説明しているのでご参照していただきたい。

 いずれにせよ、NECのパソコン事業の売却は、大改革への「狼煙」であり、これが失敗するようでは、NECの将来はない。遠藤社長も背水の陣で臨んでいることだろう。




<現代ビジネス記事より>





音史のブログ-peta