ウィキリークスの社会的意義とは? 暴露されるかもしれない恐怖が正義を生む

日に日に存在感を増し、社会的意義が問われている内部告発サイト「ウィキリークス」(WikiLeaks )。昨日も「ウィキリークス」に顧客情報を提供した容疑でスイスの元銀行幹部が逮捕され、大きなニュースになりました。

「内部告発」という言葉を聞くとなぜか一見負のイメージが付きまとってしまいそうですが、実際に彼らは何を目指しているのでしょうか。



音史のブログ-ジョン・キム

今回記者は、2011年1月12日に行われたハーバード大学法科大学院客員教授ジョン・キム氏の特別講演「ウィキリークスのすべて」に出席し話を聞いてきました。全てはここではお伝えできないので掻い摘んで個人的にインパクトがあった部分を紹介していきたいと思います。

そもそも「ウィキリークスとは?」ですが、キム氏は以下のようにまとめています。

・専制主義の克服・政府の圧政からの見解
・情報の完全透明性社会の実現
・対象は政府、企業、宗教等
・2006年12月創設
・創設者アサンジ
・2007年1月に表面化
・完全匿名性保証
・技術的・法律的リスクの最小化
・ボランティアによる運営
・寄付による運営

ここでビックリしたのが、「完全匿名性保証」の部分です。多くの内部告発サイトが乱立する中、ウィキリークスが有名になれたのは、告発者の匿名性が完全に保証されたからなんだそうです。この匿名性を守る技術も相当なものを持っているらしく、今まで一度も漏洩したことはないんだそう。(※告発者側のミスによってばれてしまったことはある)

次にキム氏から発せられた興味深いキーワードがPanopticon 」(パノプティコン)=全展望監視システム。イギリスの哲学者ジェレミ・ベンサムが設計した刑務所その他施設の構想なのですが、言葉で説明するとややこしいのでまずはこの画像 を見てください。これは円形の刑務所で、真ん中に監視塔があります。監視塔からは囚人の部屋を全てチェックすることができますが、反対に囚人は監視塔の中に誰がいるかはわからない状況になっています。囚人はいつも監視されている恐怖を抱くので、結果よい子になってしまうということです。このシステムでは、なんと0人でこの多くの囚人を監視できたとのこと。つまり、抑止力が働いているというわけです。そして、この「Panopticon」というシステムが「ウィキリークス」ではないかとキム氏は語っています。

●Panopticon」(パノプティコン)=ウィキリークス

ウィキリークスというシステムがあるからこそ、各国、企業、宗教等が何かを暴露されるかもしれない恐怖を抱き、今まで以上に正義に近い行動を起こすという仮説です。

また、スクールバスに監視カメラを設置し、その結果犯罪が減ったという例えもありました。驚くべきことは、普段は30%ほどしかカメラは稼働していないようです。いつ撮られていて、いつ撮られていないかは、もちろん公開はされませんが、それでもスクールバスに乗る学生は「監視されている恐怖」を抱きカメラが動いてなくてもよい子?になってしまうとのこと。非常に興味深い例えで妙に考えさせられました。

次にインパクトがあった話は、ウィキリークスの現在のポジションに関しての話です。最初は、ウィキペディアと同様にユーザーから投稿された情報をそのまま表示していましたが、徐々にウィキリークスはメディアのように情報を編集し自社で発信するようになっていきます。しかし、あまりのリーク情報の多さと編集作業のタスクオーバーで現在は情報を集めることだけに専念し、発信はマスメディア・・・という風に切り分けて運営をしているそうです。

1、ユーザーから投稿されたものをそのまま表示
2、メディアとして活動
3、マスメディア数社と組み役割分担

なお、現在ウィキリークスと提携しているのは以下の5社なんだそうです。

■The NewYorkTimes
■EL PAIS
■the guardian
■DER SPIEGEL
■LeMode

最初、アサンジが声を掛けたみたいなんですが、断れない理由がマスメディア側にはありました。マスメディアの経営状況が悪く、スクープが欲しかったということと、提携を断れば他社に提携の話がいってしまい結果、スクープを持っていかれる恐怖心があったから。このように見るとアサンジがどれだけ頭が良い人なのか理解できると思います。

最後にキム氏は、「ナップスター」が潰れてもP2Pが無くなるわけでなかったように、ウィキリークスが潰れても機密情報が無くなるわけではないと主張しています。つまりはウィキリークスは始まりにすぎないということになるわけです。

このように話を聞くと、ウィキリークスがまるで世界の警察のような存在で各国を監視する立場になるのではないかとさえ大袈裟ながらも感じてしまいます。そして、この存在が各国の政治腐敗や企業の不正、お金持ちを優遇するシステムなど、既得権益者のみが享受する仕組みを抜本的に改善することになれば、社会的意義というのは非常に大きいものになるのではないかと感じました。もちろん、ウィキリークス自体が機密体制をとっているので、矛盾も指摘されているそうですが。

もっとお伝えしたいことは山のようにありますが、今回は以上とさせて頂きます。なお、キム氏は2011年3月(予定)に『ウィキリークスは始まりにすぎない』(仮)という書籍を発売するとのことなので、もっと知りたい方は是非そちらを読んでみてください。

■『ウィキリークスは始まりにすぎない』(仮)目次紹介(一部)

1.ウィキリークス誕生

2.ウィキリークスと外交:外交公電公開の波紋

3.サイバー戦争の勃発

(ア)ネット企業によるウィキリークスへのサービス停止

(イ)アマゾンの判断と政治的圧力

(ウ)アマゾンの後を追うネット企業

(エ)公共圏に対する私的企業による検閲

(オ)傷ついたクラウドコンピューティングへの信頼性

(カ)DDOS 攻撃とサイバー全面戦争

(キ)反ウィキリークスによる DDOS 攻撃

(ク)新ウィキリークスによる DDOS 攻撃

(ケ)新ウィキリークス団体、Anonymous

(コ)DDOS 攻撃への二分される評価

4.ウィキリークスとジャーナリズム

(ア)ウィキリークスと大手報道機関の蜜月

(イ)進化するウィキリークスのビジネスモデル

(ウ)アサンジによるマスメディアの戦略的活用

(エ)機密を守ろうとする国家 vs. 機密を暴露しようとする市民

(オ)ウィキリークスとニューヨーク・タイムズ

5.ウィキリークスとビジネス

(ア)次のターゲットはビジネス

(イ)ウィキリークス情報の半分はビジネス関連情報

(ウ)腐敗のエコシステム

(エ)高まるウォール街の危機感

(オ)暴露に対する企業側の対応

(カ)メガリークス時代がやってくる

6.ウィキリークスの未来

(ア)ウィキリークスの是非論を超えて

(イ)機密のない完全透明化時代の到来と権威の再構築

(ウ)ウィキリークスは表現の自由へのリトマステスト

(エ)ウィキリークスは始まりに過ぎない

(オ)ナップスターを覚えていますか




<RocketNews24記事より>




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