超新星爆発を実験室内で再現


 恒星の大爆発では何が起こっているのか。その仕組みを解明するため、粘性の高い液体の中で起こる化学反応を利用し、超新星爆発を実験室内で再現する試みが行われた。


音史のブログ-超新星爆発
カシオペア座に現れた「ティコの超新星」の残骸。Ia型の超新星爆発の実例である。


 ヨウ素酸塩・亜ヒ酸系(IAA:iodate-arsenous acid system)というこの実験では、粘度の高いグリセロール溶液に少量の酸が注入され、自律的な反応が誘発されている。

 溶液内には原子爆弾のキノコ雲に似た形状の「渦」が立ち上るのだが、このような渦が「Ia型」の超新星爆発の際にも現れることがコンピューター・シミュレーションからわかっている。Ia型とは、終末期を迎えた恒星である白色矮星が連星系の相手からガスなどの物質を大量に吸収し、やがて爆発するタイプの超新星である。

 この大爆発は白色矮星が吸収する物質の量が限界に達した際に起こる。実験では、グリセロール溶液に注入された酸が引き金になっている。

 実験の共同研究者で、カナダのトロント大学の物理学者ステファン・モリス氏によると、超新星爆発もIAA実験も、自律的な攪拌反応が見られる点で一致しているという。IAA実験の化学反応を分析することで、恒星が爆発する際のメカニズムが明らかになる可能性があるのだ。

 Ia型の超新星爆発に当てはめられるという点も大きい。このタイプの爆発は最大光度の絶対等級が一定になることが多く、銀河間の距離を測る際に有用な情報となるためである。

 口から丸く吐き出したタバコの煙は、上昇して冷たい空気と混じり合うにつれ動きが遅くなっていくが、IAAで誘発された渦輪は対照的に時間とともに活発化する。通常、こうした渦輪は形成から消滅までの過程を瞬く間に終えてしまうため、分析が難しい。

 しかし今回は粘度の高いグリセロール溶液の中で実験が行われ、渦の形成スピードが遅くなり、分析しやすくなっている。渦輪が形成され、長さ40センチの透明シリンダー上部に到達するまでの時間が、約10分に引き伸ばされて観察できる。

 爆発する際の白色矮星内部でも、時間とともに活発になる同様の渦が形成されるとみられている。

 もちろんこの化学反応は超新星爆発の相似実験に過ぎず、「核反応とは何ら関係がない。穏やかな再現方法だ」とモリス氏は言う。「だが相似性は高いと思う。反応溶液の泡が流動を起こし、その流動がまた別の流動を誘発する。これにより化学反応が起こり、時間とともに活発になる渦輪が発生するというメカニズムだ」。

 今回の研究に参加したカナダのマギル大学に所属するマイケル・ロジャーズ氏によると、この実験は超新星爆発のコンピューターモデルの「現実性チェック」に相当するという。

「仮説を実証するような実験と考えてもらえばいいと思う。星の内部で起こっている反応をシミュレーションする際に、IAAはその裏付けとなり得る」。それが同氏の見解だ。前出のモリス氏は、「シミュレーションだけではわからなかったことが明らかになるかもしれない」とも話す。

 例えばこの実験では、ある時点で渦が「分断」されて複数の渦輪が立ち上るケースも確認されている。コンピューター・シミュレーションでは、超新星爆発の際に立ち上る渦輪は1つだけという予測がほとんどだった。

「IAA実験では5回も続けて分断が起こっている。活発な渦輪の先端部分が根元から切り離され、一方で根元は新たな先端部分を形成する。そして新たに形成されたその先端部分が、再び肥大化して分断されるというプロセスの繰り返しだ。同じことが恒星内部でも起こっているのかもしれない」とモリス氏は語った。

 今回の研究の詳細はコーネル大学図書館が運営するWebサイト「arXiv.org」で公開されており、「Physical Review E」誌にも掲載予定。

Image courtesy NASA, Caltech, MPIA, and Calar Alto



<ナショナルジオグラフィック記事より>




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