三題噺【理科、扇風機、ベランダ】 | 放蕩息子の放浪

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錆びてる。

 

 もう九月に入ったというのにどうしてこうも暑いのか。退屈な理科の授業を聞き流しながら、僕は特に理由もなく窓の外を眺めていた。クソ田舎の公立高校にクーラーなんて設備はない。壁に設置された数台の扇風機が気休め程度の風を送ってくれるだけ。扇風機のそばの席のやつらはまだいい。窓際最後列の僕の席はその恩恵にあずかれないず、開け放たれた窓から入ってくる生ぬるい風で我慢するしかないのだ。早く帰ってクーラーのきいた涼しい部屋でゲームがしたい。

 窓から見える校庭ではどこのクラスかは分からないが体育の授業が行われていた。このクソ暑い中ご苦労なこった。そんな校庭にひとつの黒い影が入ってくるのが見えた。

「犬?」

 思わず僕が漏らした一言にクラスメイトたちがざわめきだす。

「え、どこどこ?」と、ベランダにまで出て見ようとするものまで現れる。

 柴犬だろうか、どこにでもいる普通の中型犬だ。外でそんな野犬に遭遇してもそこまで騒がないだろうに、どうして校庭に入ってくるだけでちょっとした事件になってしまうのだろうか。自分の漏らした一言がきっかけなだけに、授業が中断され困り眉の理科教師に少しだけ申し訳なく思う。

「なにあれ……」

 校庭の闖入者に騒いでいたクラスメイトたちが突然、様相を変えた。悲鳴のような声をあげているものまでいる。少し気になりベランダに群がるクラスメイトたちの隙間から校庭をのぞいてみる。

 

 そこには明らかに先ほど見た犬とは違った「何か」がいた。