第68回『敗戦して』
工場内の中国人従業員の動きが緩慢になる。
戦局は転戦に次ぐ転戦で、
レイテの海戦とミッドウェイの海戦で、
中国人の報告では我が海軍壊滅的打撃を受けたと。
沖縄の死闘の末、
日本が世界に誇る戦艦が、
群がる敵飛行機に沈められたと話す。
希望は急速に後退をする。
長崎に強大な爆弾が投下されて、
一瞬にして全市壊滅したと中国人より聞く。
耳に広島に又しても強大な爆弾が投下される。
新聞紙上はもう信用できぬ。
日本がソ連の仲裁で降伏したらしいとか、
巷の噂しきり。
我々は明日を思わず今日を頑張る。
職場に正午前に事務所に全員集合の伝令が来る。
整列。
時報の余韻続く中に放送が始まる。
防空壕の中なのか、
声が反響してこもり何を言ってるのか意味不明。
負けたらしい。
全員呆然としてたたずむ。
放送を反復するが、
「忍びがたきを忍び…」
後は意味不明が続く。
昭和二十八年八月十五日無条件降伏をする。
負けたと言って落胆する者。
馬鹿を言え、これから戦えと言う者。
様々だが結局敗戦に落ち着く。
直ちに工場は閉鎖する。
中国従業員には三日後に給料は支払う約束して、
門扉を閉める。
数十日を振り返る。
敗戦が日増しに濃厚になるのを裏書するように、
B29の巨大な敵飛行機が低空で去来する。
我が軍の戦闘機が鳩に雀が食い下がるように、
突撃するを眺めて、
落とせ落とせと声援を送る。
上空より現在使用の軍票一万円がばらまかれる。
経済錯乱か。
上空よりビラが撒かれる拾って見れば、
「日本軍全面無条件で連合軍に降伏をする無益な抵抗は即時に停止しろ」
度重なるが警告だったのか…。
敗戦の午後にいたり、
B29が凄い超低空で飛来する。
爆音と家屋を振動させて、
見上げると乗務員の手を振る姿が見えそう。
業者を呼びつけて、
全商品の購買を促進するが、
足下を見て安価に叩く。
彼らにすれば千載一遇の好機。
時間と共に商品も減少する。
残り少なくなった倉庫の残品を眺めて、
敗戦の重圧をひしひしと感ずる。
三日後、
中国従業員の支払いも済ますが、
残るのは我々の支給金。
これが最後の現金受け取り。
給料高で分配する。
日本は負けたのだから頭割りと揉めたが、
結局、頭割りに落ち着く。
一人、平均八百万円。
支給終わると、
早くも所帯持ち、
所帯道具や種々な物を残して、
持参したくも置場所が無い。
妻子を連れて共同租界へと避難して行く。
人間最後の所まで追い詰められと、
その人の心底が判る。
我々独身者だけ残り工場の残務整理に取り掛かる。
広大な敷地。
日本の諺に「立つ鳥跡を汚すさず」
整理整頓に連日に渡り汗を流す。
ああ、
警備のインド人どうしているかと心配になる。
呼びに行くと、
宛がわれた部屋で大人しくしている。
訳を話して賃金を支払い、
売れ残りの残品の中より欲しい物があれば、
持ち帰れと頼む。
10人余り、
得心をして別れに来る。
全員で大門迄見送る。
彼等大地に平伏して、
我々の誠意に感謝の念を表す意味であろう。
アラーの神に捧げる如く礼拝を繰り返し別れを惜しむ。
整理整頓の間、
近くの顔馴染みの喫茶店に行くが、
何時なんどき中国人に襲われるかも知れぬ不安がある。
夏の軽装の腰に日本刀を、
ベルトに吊るすは手榴弾。
店主目を丸くして驚く。
整理整頓終了する。
事務所の壁に委細を書き込み、
壁に貼り付ける。
別れの宴席を張るが、
この間、
独りも重役連姿を見せず。
明日、迎えが来る。
翌朝目覚めて戸外を見ると、
会社の前も後ろも群集で埋まる。
何事?
その内、
フェンスに昇り大門を乗り越えて民衆、
工場になだれ込む。
手当たり次第に取り込む。
我々の一寸先は闇との思いがする。
頼るは腰の日本刀のみ。
中には元従業員の顔も見える。
呼び寄せて倉庫の扉を開き、
「持てるだけ持ち帰れ。」と、
どうせ根こそぎ盗られるであろう、
差し招き早く持ち出せと手伝う。
時間と共に疲れてきたのか、
動きが緩慢になる。
夕暮れ近く一人去り二人去り。
薄暗くなる頃には人影無し。
日も暮れて工場の内は静かになる。
我々、不安を語り合う。
今日来るはずの迎えの車は来たのであろうか…。
心身ともに疲れ果てて言葉も無く、
忘れていた食事をする。
我々全くの孤立の置かれた。
明日はどうなる…。
翌日も来る。
持ち去る物が無くなると、
水道のカランやガスの部品を外す。
我々その穴にぼろを入れたり、
穴塞ぎに懸命になる。
それも無くなると、
我々の宿舎に雪崩れ込まんとする。
入られると我々裸になる。
戸口で頑張る。
二、三メートル前方に群集。
我々に罵声を浴びせて其処退けと叫ぶ。
無意識に手榴弾を持ち、
刀の鯉口を切る。
騒動になれば切り込み、
最後に手榴弾を投げて多数で三途の川を渡る覚悟。
遂にリーダー格が「負けた!」と、
皆を促し連れて帰る後ろ姿を見て、
我々、其処にヘタリ込む。
立って居られない。
その惨劇を詳細に書き記して、
事務所の壁に貼り付ける。
明日は迎えに来るとの連絡がある。
蒲団袋に詰めるだけ詰め込み、
跡は持って行かれぬ品々。
独身ではあるが、
部品、備品が残る。
それら品々には一つ々思い出がある。
戦局は転戦に次ぐ転戦で、
レイテの海戦とミッドウェイの海戦で、
中国人の報告では我が海軍壊滅的打撃を受けたと。
沖縄の死闘の末、
日本が世界に誇る戦艦が、
群がる敵飛行機に沈められたと話す。
希望は急速に後退をする。
長崎に強大な爆弾が投下されて、
一瞬にして全市壊滅したと中国人より聞く。
耳に広島に又しても強大な爆弾が投下される。
新聞紙上はもう信用できぬ。
日本がソ連の仲裁で降伏したらしいとか、
巷の噂しきり。
我々は明日を思わず今日を頑張る。
職場に正午前に事務所に全員集合の伝令が来る。
整列。
時報の余韻続く中に放送が始まる。
防空壕の中なのか、
声が反響してこもり何を言ってるのか意味不明。
負けたらしい。
全員呆然としてたたずむ。
放送を反復するが、
「忍びがたきを忍び…」
後は意味不明が続く。
昭和二十八年八月十五日無条件降伏をする。
負けたと言って落胆する者。
馬鹿を言え、これから戦えと言う者。
様々だが結局敗戦に落ち着く。
直ちに工場は閉鎖する。
中国従業員には三日後に給料は支払う約束して、
門扉を閉める。
数十日を振り返る。
敗戦が日増しに濃厚になるのを裏書するように、
B29の巨大な敵飛行機が低空で去来する。
我が軍の戦闘機が鳩に雀が食い下がるように、
突撃するを眺めて、
落とせ落とせと声援を送る。
上空より現在使用の軍票一万円がばらまかれる。
経済錯乱か。
上空よりビラが撒かれる拾って見れば、
「日本軍全面無条件で連合軍に降伏をする無益な抵抗は即時に停止しろ」
度重なるが警告だったのか…。
敗戦の午後にいたり、
B29が凄い超低空で飛来する。
爆音と家屋を振動させて、
見上げると乗務員の手を振る姿が見えそう。
業者を呼びつけて、
全商品の購買を促進するが、
足下を見て安価に叩く。
彼らにすれば千載一遇の好機。
時間と共に商品も減少する。
残り少なくなった倉庫の残品を眺めて、
敗戦の重圧をひしひしと感ずる。
三日後、
中国従業員の支払いも済ますが、
残るのは我々の支給金。
これが最後の現金受け取り。
給料高で分配する。
日本は負けたのだから頭割りと揉めたが、
結局、頭割りに落ち着く。
一人、平均八百万円。
支給終わると、
早くも所帯持ち、
所帯道具や種々な物を残して、
持参したくも置場所が無い。
妻子を連れて共同租界へと避難して行く。
人間最後の所まで追い詰められと、
その人の心底が判る。
我々独身者だけ残り工場の残務整理に取り掛かる。
広大な敷地。
日本の諺に「立つ鳥跡を汚すさず」
整理整頓に連日に渡り汗を流す。
ああ、
警備のインド人どうしているかと心配になる。
呼びに行くと、
宛がわれた部屋で大人しくしている。
訳を話して賃金を支払い、
売れ残りの残品の中より欲しい物があれば、
持ち帰れと頼む。
10人余り、
得心をして別れに来る。
全員で大門迄見送る。
彼等大地に平伏して、
我々の誠意に感謝の念を表す意味であろう。
アラーの神に捧げる如く礼拝を繰り返し別れを惜しむ。
整理整頓の間、
近くの顔馴染みの喫茶店に行くが、
何時なんどき中国人に襲われるかも知れぬ不安がある。
夏の軽装の腰に日本刀を、
ベルトに吊るすは手榴弾。
店主目を丸くして驚く。
整理整頓終了する。
事務所の壁に委細を書き込み、
壁に貼り付ける。
別れの宴席を張るが、
この間、
独りも重役連姿を見せず。
明日、迎えが来る。
翌朝目覚めて戸外を見ると、
会社の前も後ろも群集で埋まる。
何事?
その内、
フェンスに昇り大門を乗り越えて民衆、
工場になだれ込む。
手当たり次第に取り込む。
我々の一寸先は闇との思いがする。
頼るは腰の日本刀のみ。
中には元従業員の顔も見える。
呼び寄せて倉庫の扉を開き、
「持てるだけ持ち帰れ。」と、
どうせ根こそぎ盗られるであろう、
差し招き早く持ち出せと手伝う。
時間と共に疲れてきたのか、
動きが緩慢になる。
夕暮れ近く一人去り二人去り。
薄暗くなる頃には人影無し。
日も暮れて工場の内は静かになる。
我々、不安を語り合う。
今日来るはずの迎えの車は来たのであろうか…。
心身ともに疲れ果てて言葉も無く、
忘れていた食事をする。
我々全くの孤立の置かれた。
明日はどうなる…。
翌日も来る。
持ち去る物が無くなると、
水道のカランやガスの部品を外す。
我々その穴にぼろを入れたり、
穴塞ぎに懸命になる。
それも無くなると、
我々の宿舎に雪崩れ込まんとする。
入られると我々裸になる。
戸口で頑張る。
二、三メートル前方に群集。
我々に罵声を浴びせて其処退けと叫ぶ。
無意識に手榴弾を持ち、
刀の鯉口を切る。
騒動になれば切り込み、
最後に手榴弾を投げて多数で三途の川を渡る覚悟。
遂にリーダー格が「負けた!」と、
皆を促し連れて帰る後ろ姿を見て、
我々、其処にヘタリ込む。
立って居られない。
その惨劇を詳細に書き記して、
事務所の壁に貼り付ける。
明日は迎えに来るとの連絡がある。
蒲団袋に詰めるだけ詰め込み、
跡は持って行かれぬ品々。
独身ではあるが、
部品、備品が残る。
それら品々には一つ々思い出がある。