第61回『内地の様子』 | 五目紙物店「寅屋」

第61回『内地の様子』

これからの内地のにおける行動を書き提出する。
ボーイ、
荷物を持って私の後に従う。

本社にて上海会社の成績を報告していると、
警官が来訪する。
「Y居るか。」
「私です。」
外地の様々を話すなと口止めされる。
これかの予定を聞く。
家に帰り離れで母を見舞う耳に、
「Y居るか。」
「私です。」
予定を聞き口止めして帰る。
滞在一週間、
行く先々で罪人扱いで精神的に参る。

国内は徹底した配給制度で早くも木綿物は見当たらぬ。
お前の着衣全部を脱いでおいて帰れ。
殆ど置いて、
身軽くなった身を夜汽車の座席でまどろむ頃、
ふんわりと列車が浮き上がる。
台風の来襲。
新聞では山口県目下台風が通過中。
岡山で列車進行打ち切り。
裏日本回りの列車に乗り込む。
短いトンネルの連続で、
初めはその都度わからず窓の開け閉めに専念するが、
中止をして荒れ狂う海面を不安な気持ちで眺める。
駅に停車をする。
国防婦人のタスキを掛けた多くの婦人達が、
お疲れさまと笑顔で炊き出しのムスビを差し出す。
良きかな日本の国情。
有難く戴く。
ほんのりと塩味が舌に解ける。
停車毎に労りと慰めの言葉を掛けられる。
流れる汗を拭いていると、
隣に座る人が、
「それは木綿のタオルですか?珍しい。」と、
手に取って見る。
日用品もここ迄不自由しているのか。
良かったら差し上げますと手渡す。

長崎に着く。
流れる汗を流そうと銭湯を探して汗を流す。

今度は気楽な二等に乗り込む。
初めて知人を頼り上海に行く娘さんを両親より預かる。
船内の風呂は海水だから石鹸の泡立ちが無い。
夜半に客船停止する。
近くに敵潜水艦潜行の気配あり。
真っ暗闇の船内で指定の場所で、
浮き袋を身に付けて、
預かった娘さんを片側に息を凝らして解除を待つ。
数時間、
いやもっと短かったかな。
再び快適なローリングを繰り返し、
洋上を船は進む。
船に乗り込む時に話し相手になった人が、
仕切と何かを探している。
ニヤリを笑い。
話すには、
あの緊張の真只中に隣に女がいる。
手を出すと手応えあり。
そのまま今生の名残りと関係を結んでいたらしい…。
あの緊張の最中に…この男、
余程の度胸の持ち主なのか、
匂いを頼りに探すが遂に断念する。
人間絶対絶命でも希望は捨てては駄目と教わる。
娘さんを相手に渡して、
日は短くも安堵の上海に帰る。

洋上の戦線新聞報道より、
余程せっぱ詰まっているのかしらん。
往復、
敵潜水艦の脅威に晒される。
ともあれ、
懸命に仕事に励む事。
母も安心したのか安堵の日々を送るとか。