第17回『蛙』 | 五目紙物店「寅屋」

第17回『蛙』

我が家の畳は、
破れて中の藁が多数見える。
それを隠す為に渋紙を張り付けて誤魔化す。

父は酒の一滴も飲めぬが、
年末が来ると酒屋の主人が、
母に支払い(当時は盆と年末支払い)
を要求している。
醤油と酢の残金が何時も十余円を超えていて、
母は何時も苦渋を顔に頭を下げている。
訳が分からず寂しく眺める…。

父は器用な人で、
藁屋根の葺(ふ)き替え等を請負帰り、
私達、子供を連れて行く。
古い藁を屋根から降ろして束にするが、
多年の埃で全身真っ黒くなる。
兄達は荷車に積み込み藁を運ぶ。
運んだ新しい小麦藁を屋根に並べて、
それを大きな針に縄を通して縫いつけるが、
その針の穴に縄の端を、
通すだけの仕事に屋根裏に入る。
それが私の仕事。
僅かな明かりを頼りに、
差し入れた針の穴に縄を通して、
次を待つ。
見える物も無く、
長時間一人屋根裏の仕事は、
嫌だが嫌とも言えず。

頑張って仕上げ、
夕方帰ると全身鼻の中まで真っ黒で、
それを井戸水で洗い風呂に行く。
父より労りの言葉も無し。

時々連れて行かれるがその度に、
兄弟行くのを渋る。
又、時には掘抜き井戸の仕事の雑用に、
連れて行かれるが、
暇が多くて遊び相手も無く行くのは嫌だった。
父は左官仕事の壁土練りも行っていた。

私の家の裏庭には、
大きなイチジクの木が三本、
桃ノ木や蜜柑の木、
ザクロ、葡萄の木、
ユスラメ等がある。
季節毎に父の許しで収穫をするのが、
楽しみであった。

イチジクは朝目覚めると木に登り、
木の股に腰を降ろして、
朝露に冷えたイチジクを食べる。
実に楽しい。

又、
葡萄の房の中より、
熟したのを一粒ずつ食べるのも、
朝起きの楽しみ。

夕方近く、
鶏を小屋に入れる前に、
ザクロの木を揺するとブンブンが多数落ちる。
それを鶏が競って飲み込めば、
暫くは胃の中でブンブンと動いている。
その頃に離れの靴脱ぎ石の、
下の穴から数匹の『がま蛙』が出て来る。

鶏に突かれ乍らも、
目を白黒にしてブンブンを飲み込む。

何時の頃からか声を掛けてやると、
出て来て鶏と仲良く飲み込むようになる。

そして何時頃と無く、
私が呼ぶと、
のっそり出て来る。

雨降りの日なんかに庭を通り、
表に出て行くのを見ると、
私が、
「こら表に出ると殺される。」
と声を掛けてやると、
グルリと裏に向けて方向転換。

何時しか私の声だけでも方向転換をする。
それが評判になり、
大人達わざわざ見に来て、
「蛙でも人間の言葉が判るのか。」
と感心仕切り。
何年も数匹が居候していた。

秋深く田園へイナゴ捕りに行く。
番(つが)いを使えば二匹一度に捕れる。
それを鶏と蛙に与えると、
鶏の羽根の色が綺麗になる。

カマキリは交尾を済ますと、
雄は雌の餌食になる。
雌が雄の頭より食べるを見る。

諺(ことわざ)に、
『蜘蛛の子を散らす』と聞くが、
蜘蛛の白い膜が破れて蜘蛛の子が出て、
瞬時にして四方に小蜘蛛が飛散する。