「さよならは仮のことば」少年12 谷川俊太郎


夕焼けと別れて
ぼくは夜に出会う
でも茜色の雲はどこへも行かない
闇にかくれているだけだ

星たちにぼくは今晩はと言わない
彼らはいつも昼の光にひそんでいるから
赤んぼうだったぼくは
ぼくの年輪の中心にいまもいる

誰もいなくならないとぼくは思う
死んだ祖父はぼくの肩に生えたつばさ
時間を超えたどこかへぼくを連れて行く
枯れた花々が残した種子といっしょに

さよならは仮のことば
思い出よりも記憶よりも深く
ぼくらをむすんでいるものがある
それを探さなくてもいい信じさえすれば


詩集『私』11月