第20幕 | 小説製作所 FELLOW'S PROJECT REBEL

小説製作所 FELLOW'S PROJECT REBEL

FELLOW'S PROJECT REBELへようこそ。
小説書いてま~す。

第20幕


管理音楽の中枢施設であるエデン。巨大な円を描いたような施設の中心にそびえ立つ本部棟の中に、家康が腰をおろす玉座の間があるのだ。家康の仕事場はこの玉座の間である。ひどく片付いており、オフィスをとっ散らかしているムンクとは実に対照的だ。彼の仕事はパソコンを通してきっちりと期限内に済まされ、ギターやドラム、キーボードなどあらゆる楽器の音源を打ち込みながら楽曲を作り上げていく。まさに機械に囲まれた機械的な作業だ。そんな優秀な彼のもとには、ここ最近になってよく電話がかかるようになった。もともと芸能プロダクションの会長たる存在で電話が多いのは当たり前なのだが、このところはあるふたりからの電話が集中するようになった。ひとりは凛堂幸代。エデンが位置する東京都内のとある大学病院の医院長だ。そしてもうひとりは、今電話がかかってきた。
「ああ・・・君か・・・」
その電話の相手がわかると、声に落胆が交じる。家康自身も彼女とは話したくないらしい。
「なんですかー家康さん、その返事は~」
声の主は落ち着きがなく、甘えるような口調で話すだけでも疲れてしまいそうだ。
「君には、こっちもまいっているよ」
「そーんなこといっていいんですかー?あたしの父さんには逆らえないんでしょー」
家康は痛いところを突かれたような苦い表情をする。
「あたしも、あなたも父さんがいなかったら、この世にはいないんですよ
 TTB計画も、AIFC計画もなかったんですよー
 なんで旧政府は、父さんの崇高な科学を理解しなかったんでしょうね?
 よっぽど低脳だったに違いないわ! 人類の特権である科学を
 くだらない倫理や思想でコケにしたんですからね
 今はほんと、いい気味よね!そのくだらない倫理や思想が
 科学のための道具になってくれるんですもの!」
丁寧語でうざったくきゃぴきゃぴと、けらけら笑いながら彼女の饒舌が続く。
「しゃべりすぎだぞ・・・」
「はいはい、わかってますよ~い・え・や・すさん!それよりー
 あのおもちゃ泳がしておいてくださいね~!とっても面白いんですよー
 ちょっと吹き込んだだけでコロコロ転がってくれるんですもの!
 伝えたかったことは~ようは、あたしがあのおもちゃと何をやったって黙認してくださいね!
 これからすっごい面白いことしますんで!」
「何をする気なんだ?」
家康が警戒心を抱くような彼女とは一体誰なのだろうか。
「それ、言っちゃったら面白くないじゃないですか~!家康さんには害は及びませんよ
 あのおもちゃ、家康さんには邪魔者になってたんでしょ~?
 それを片付けてあげるんですから、感謝してくださいよー」
「ほう、そうか・・・わかった今回は何をやっても黙認ということだな」
「上出来です~!じゃあ、よろしくお願いしますね!家康さん!」
そこで電話が切れた。家康は大きくため息をついた。
「あいつと話すのは・・・疲れるな・・・、なぜかな・・・」
そう言って首をかしげながら、拳を握り締め、骨をぽきりと鳴らした。


バーのさらに地下にある酒蔵には酒樽がつまれておりワインの香りが立ち込めている。その奥には様々な種類の酒やドライフルーツなどの加工食品が積まれており、その隣に洋風のバーには全くもって似合わない畳の敷かれた座敷がいくつか有り、酔いつぶれたムンクはそこで寝かされていた。彼に話があるということで、宿もない寺嶋とΔ愛のふたりは彼がいびきをかきながら寝ている座敷に上がった。
「ここは・・・?」
「まあ、俺の家だ・・・ここに住んでるからな」
そう言ってマスターは座布団の上に座ってテレビを見ながら笑っている。
「なんで畳・・・?」
「ここもともと居酒屋だったんだよ 上の階はバーで下の階に座敷を設けてたんだけど
 上の階にステージを増築してから座敷に誰も来なくなってよ 
 そんで酔いつぶれた客かくまってるうちに 俺まで住むようなっちゃったよ」
マスターの言うとおり、ほかの座敷の部屋にも何人か酔いつぶれた客がいびきをかいたり、酒瓶を枕にしたりして眠っていた。
「まるでスラムの無法地帯のようだな・・・」
「ま~あ、いいんじゃないですかー、どうせあたしたち宿無しふたり組
 すっかりイージーライダーですよ」
「なんだそれ・・・」
「古い映画だな・・・」
マスターが、ぼそりとつぶやいたところで、いびきをかいてる上に足を投げ出したまま行儀悪く寝ていた彼ががばりと上体を起こした。あくびをひとつすると、顔を洗う猫のように手で目をぐりぐりとぬぐい、またあくびをひとつした。そして、寺嶋とΔ愛がいる方を、寝癖のついたボサボサの髪をかきあげて寝ぼけ眼でまじまじと見つめたあと、また仰向けに倒れた。
「いや、寝るんかい・・・」
「いや・・・あまりにも信じられない人がいたもんで・・・」
「現実逃避かよ」
そこで仕切りなおしたというように、ムンクは起き上がる。相変わらず寝癖は直っているわけもないが目つきはキリリとしている。
「・・・率直に聞く・・・、コンサート会場に催眠ガスをばらまいたのは、君たちか?」
ムンクが切り出した質問に、寺嶋とΔ愛は顔を俯け、マスターは驚き目を見開いた。
「あ、あれは・・・政府支持の民間テロだったんじゃ・・・」
「それはでっち上げです・・・」
寺嶋が小さく頷いてから、口を開いた。
「・・・ずるい生き方はもうやめます・・・ここで全て言おうと思います・・・
 あのコンサート会場の事件は、あたし・・・寺嶋優香梨(てらしま ゆかり)が所属していた
 ザ・クルシエイダーズのメンバーのひとりである友見坂嬉良(ともみさか きら)の犯行です」
ムンクにはその名前に心当たりがあった。そう、例のコンサート事件の日、ICの前座を担当していてご丁寧に挨拶までしに来たあの赤髪の少女だ。
「それをあたしは知っていながら・・・黙って見送りました・・・」
小柄な寺島の肩は小さく震えていた。
「本当に・・・申し訳ないことをしました・・・黙っているしかなかったんです・・・
 嬉良は・・・限りなく危険な嫉妬心の塊です そのせいでリースも・・・」
ムンクの目が見開かれた瞬間、彼は腕で座卓をバンと叩き、寺島に向かって身を乗り出してきた。
「リース、リースのことを何か知ってるのか!」
かつてのICのメンバーであるリースの名前が、思ってもみなかった人物の口から発せられたのだ。聞かずにはいられなかったのだろう。
「リースの父親は誘拐され、嬉良に監禁されていたんです!」
「君も、ザ・クルシエイダーズのメンバーだったな」
「Δ愛(デルタ あい)です・・・嬉良は管理音楽のためと謳って誘拐だろうが
 監禁だろうが、虐待だろうが、なんでもやってしまう・・・彼女は鬼畜です・・・」
「何のために監禁されてたんだ?」
「リースを思い通りに動かすためですよ!あいつは、親を・・・家族をなんだと!
 だから嫌いなんですよ・・・、手段を選ばない奴は・・・」
Δ愛の発言で、ムンクの心の中にあった疑惑が確信へとつながった。
「そうか・・・それで、リースはタバコを・・・」
「タバコ・・・?」
寺嶋も嬉良の謀略をすべて知っているわけではないようだ。
「リースは未成年でICのメンバーでありながら、タバコと酒をやっていた
 非行少女としてスキャンダル記事に干されたんだよ・・・
 そのせいで、ライブはめちゃめちゃにされ、レコーディングスタジオも追い出された」
「・・・そのための人質だったというわけか・・・、リース・・・すまない・・・
 元メンバーとしてあたしが守ってやるべきだったのにな・・・」
その一言にさらにムンクの目が見開かれる。
「ザ・クルシエイダーズにリースがいたというのか・・・?彼女はうちのICのメンバーだったんだぞ」
「Δ愛が入る前に、ほぼフロントマンでした・・・あたしとリースの存在は嬉良にとって
 目の上のたんこぶだったようで、管理音楽というより彼女の私怨が動機かと
 気をつけてください・・・今の彼女は・・・リースの居場所を消すためなら手段を選びません」
「ああ、そのようだな・・・人を貶めるために親を利用するとは正気の沙汰とは思えない」
嬉良の凶暴性はムンクも十分に理解した。だが彼の中に、ふとある疑問が浮かび上がった。
「・・・君たちはなんでこんなとこにいるんだ?嬉良の命令・・・ではなさそうだな」
そう言うとΔ愛が、自嘲するように答えた。
「あたしたち、お払い箱にされたんですよ リースのお父さんを助け出したことで
 裏切り者としてさんざん痛めつけられたあと、地下のスクラップ場に仲良く捨てられたんです
 それで、歌でも歌ってお金をもらいながら生活していこうって」
「それで、ここに来たわけか・・・、嬢ちゃん若いのに苦労したんだな」
会話をただただ聞いていたマスターがしみじみとつぶやいた。3人ともの状況を汲み取ったマスターがパンパンと手をたたいて3人の注目を煽る。3人が自分の方を向いたところでにやりと笑いすくっと立ち上がった。大きなお腹がゆっさゆさと揺れる。そしてその口から、見た目通りの太っ腹な言葉が発せられた。
「ようし!兄ちゃん、ムンクと言ったか?今日からこの俺のバーが
 お前のスタジオだ!ICもここに連れてきてやれ」
「え・・・えぇっ!い、いいんですか!今や私のICは・・・非行少女をかくまっていた・・・」
「構うもんかい!うちは歌上手くて可愛けりゃ、客は大喜びだ しばらくやっかいになっとけ!」
「あ、ありがとうございます!マスター!」
そう言って、ムンクは大きく頭を下げた。
「マスターじゃねえ、これからはダチなんだからよ 俺は奥田民善(おくだ たみよし)ってんだ」
「奥田さん!よろしく願います!」
もう一度深く頭を下げた。
「あたしたちも厄介になっていいですか?」
かまわんと返事を返す奥田にむかって、ふたりも頭を下げる。これで3人とも奥田の経営するバーに住み込むことになったというわけだ。
「金はそんなにねえが、こっちもよろしくな その代わりしっかりやってくれよ」
奥田は、歯を見せてニカっと笑ってみせた。そこで顔を上げたムンクが今度は寺嶋とΔ愛の方に向き直った。
「なあ・・・君たち・・・」
「は、はい・・・」
寺嶋が間の抜けた返事をする。
「君たちもどうだ?ICに入らないか?」
その提案はあまりにも唐突だった。出会い頭の衝突事故のような予測不可能の衝撃が頭を襲い、耳を疑うどころかちぎって投げ捨てたくなるほどだ。思考回路が停止し、脳みそがプスプスと音を立てるようだった。
「あ・・・あの・・・何をいってるんですか・・・」
ふたりとも、ムンクの先ほどの発言を聞き間違いとしか捉えられていないようだ。
「だから、ICのメンバーに・・・」
「ああの・・・それって・・・」
「私のプロデュースのもとで、星羅や美那と一緒に歌うということだ」
「あーあ、ですよねー!あたしもなんかそんな気がしてたというか・・・ね!寺嶋先輩!」
「ああ・・・そうだな・・・」
「ってんなわけあるかあああっ!!」
Δ愛がいきなり座卓から立ち上がった。
「む・・・ムンクさん・・・、あたしたちのことなんなのかわかってるんですか?
 敵なんですよ!あなたの!管理音楽の手先なんですよ!」
「元だろ?」
Δ愛を見上げるその顔に冗談はなかった。
「・・・確かにこのまま、ふたりは少し心もとないですけど・・・いいんですか?」
Δ愛とは対照的に、寺嶋はムンクを見上げるようにして尋ねる。
「もちろんだよ、君たちはアイドルなんだろ?それだけでICのメンバーとして十分だ
 これからは星羅、美那とともに・・・そしてリースが戻ってきたとき
 ICはアイドルグループとして最強の5人になるんだよ」
差し出された手に寺嶋はそっと握手を交わしたが、Δ愛は立ち上がったままムンクの手に触れようとはしなかった。