地獄の王、エンマの居城の中に、ナラクは入った。
ナラク「なつかしいな・・・。」
大きな城門をくぐると、まず、城壁に囲まれた広い庭園に出る。
そして、さらにそこを通り抜けると
ひときわ大きな広間につながる。
謁見(えっけん)の間だ。
そこには、天使と悪魔がにらみ合う巨大な彫刻をはさむようにして
大きな玉座がふたつ・・・。
ナラク「・・・。」
その彫刻の前には、ひとりの女性が立っていた。
彼女はこちらをふり返る。
「おかえりなさい。ナラク・・・。」
ナラクはその姿に見覚えがあった。だが、思い出せない。
なぜか思い出せない。
「うっ・・・。」
それどころか、自分の体が、それを思い出すこと自体に拒否反応を示す。
心臓を誰かに握りしめられているかのように痛む。
思わず、ナラクはうずくまった。
そこに、その女性がかけ込む。
「だ、だいじょうぶ?」
「あ、うん・・・。」
「どうしたの?」
「わからない・・・。思い出せない・・・。
なにも、誰なのかということさえ・・・。」
だが、それは、むしろ好都合なことだった。
きっと自分は、ほんものの太陽に比べれば、輝きはひどく足りない偽物。
太陽のイミテーションにすぎない。
そう、女は思っていたからだ。
「いいの。今はわからなくて・・・。行きましょ。」
そう言って、彼女はナラクの手を握りしめた。
はじめて、誰かと手をつないだ。
その暖かさにそっと、過去の記憶の1ページを重ねて・・・。
「ねえねえ、おかあさん、今日の晩ご飯はな~に?」
「え~とね。クリームシチューよ。」
「ほんとうっ!だ~いすきっ!」
「にんじんも残さず食べるのよ。」
「わたしが、この前、にんじん残したのはなんか、固かったからだよ。」
「え・・・。うそ・・・。火とおってなかった・・・。」
そんなやりとりをずっと鏡の向こうからながめていた。
「ねえ。お母さん・・・。」
「なあに・・・?」
「なんか、鏡の中の人ってみんな、さみしそうな目してるの、なんで?」
「え?そ、そうかな・・・?」
その少女のひと言にはっとなった。
とっさに、なんとか平然を装ってみたが、依然として、その鏡の向こうのものは
自分には永遠に手にはいることのないだろうものだった。
ところが、しばらくすると、その少女はこちらに駆けてきて、
鏡に向かって、こう言うのだった。
「げんきだしてね。」
耳に焼き付いて離れなかった。
その言葉がまた、自分の中でわき上がってきた。
それをかみしめるようにして、ナラクの手をぎゅっと握りしめた。
きっと、また短い間だろう。
手に入れることなんて、結局できないだろう。
でも、今この瞬間だけは、わたしのもの・・・。
そうだよね・・・?
「どうしたんだ?」
「ううん、なんでもない。」
少し濡れたまぶたをこすりながら、
ナラクの手を引いて、謁見の間の奥の部屋へと・・・。
ふたりをエンマがむかえる。
エンマ「ナラクちゃん。よく無事でかえって、お父ちゃんはマンモスうれピーなのだ~!」
・・・。
エンマはナラクを抱きかかえようとするが、
ナラクから、無言であごをアッパーカットされた。
エンマ「あぐっ!」
ナラク「べたべたするな。このロリペド。」
エンマ「いった~! もう絶対、舌かんだ!」
ナラク「なんだ、しゃべれるのかよ。どうせなら、舌かみきって出血多量で
地獄に落ちてしまえばいいのにって、あ、ここ、地獄なんだった。」
エンマ「お~っ!さっすが、死神ジョーク!」
全然、うまくねえんだよ・・・。
なに、このやりとり、むかつくんだけど!
一気にさめてしまった・・・。
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「逃げられるとでも思ってるのかい?」
あいかわらず、カラスがしつこく追い回してくる。
サタン「いいか、瑠奈。おまえだけで逃げろ。」
瑠奈「あ、あたしだけで逃げるって、どうやって!投身自殺でもしろっての!」
サタン「いいからっ!」
そう言うと、サタンは、空間をゆがませ、次元の穴をつくり、
その中に乱暴に瑠奈をぶちこんだ。
瑠奈「うわぁあっ!」
カラス「ほう、女は逃がしたようだけど、残念・・・。そいつに用はないよ。」
サタン「そんなことはわかってる。」
サタンは、矛をかまえた。
カラス「ええ・・・。まさか、やり合おうなんて思ってるんじゃないよね。
ボクは話を聞きたいだけなのに・・・。」
サタン「おまえに話すことなんてねえよ。」
カラス「天照(あまでら)さんは、どこにいる?」
サタン「こたえるわけねえだろうがっ!」
サタンはカラスにむかって、大きく矛を突き出すがひゅるりとかわされる。
それどころか、後ろに回り込んだ上にカラスから姿を変え、
成鬼の元の姿にもどり、サタンの首根っこに手をかけた。
成鬼「まあ、別に答えなんかなくてもいいけどね。
わかってるから。君は、死穂の始末をおこたった。そうだろ?」
サタン「・・・。な、なぜ?それを・・・。」
成鬼「簡単だよ・・・。ずっと探していた人が・・・。
ボクが求めても求めても届かない人が、
そう簡単に現れるわけないだろ・・・。」
サタンはわき起こる身震いをこらえながら、成鬼の腹部に肘鉄砲をかます。
成鬼「おっと、あぶないあぶない・・・。」
身軽な野郎だ。
成鬼「どうやら、偽物の太陽を沈める前に、君をどうにかしないといけないみたいだね。
血の宴と呼ぶには役者不足かもしれないけど・・・。」
サタン「こっちのセリフだ・・・。」