私が好きな漫画のひとつに『蒼天航路』という、中国三国時代の乱世の奸雄・曹操孟徳を主人公にした作品があります。

 

この作品には多士多才な人物が出てきて、様々なエピソードを提供してくれるのですが、私が最も気に入っているエピソードのひとつに、死に直面した軍師・郭嘉(カクカ)が、自らの能力を最大限に発揮するためには、軍略を描くだけでなく、国づくり、すなわち、「王」としての仕事に取り組む境地に至る、というものがあります。

 

この時、軍師・郭嘉(カクカ)を見舞っていた、君主の曹操は、「めでたい話ではないか!ついに俺の臣から王が誕生するのだ!」と、ようやく自らの部下の中から、自分と同等の高みに至った人材の誕生を祝います。

 

 

 

政戦両略の天才であり、文章や詩歌、音楽にも秀でる万能人であったと言われる曹操は、有能な部下に嫉妬を覚えることもなく、排除することもなく、無邪気に喜びを示すシーンが印象的でした。

 

このエピソードから、私が学んだことがあります。

 

それはキャリア開発には2種類あって、ひとつは、軍師・郭嘉(カクカ)のように、自らの専門領域の道を徹底的に極め、唯一無二の人材となるプロフェッショナルの道(これは私の目指している道)。

 

もうひとつは、専門領域の枠外にはみ出して、より広い視野・視点から、世界の事象を理解し、多くの人に新たな世界観を提示し、その世界に促すというリーダーとしての道

 

前者の道については、プロジェクト・マネジメントやマーケティング等の体系的な知識や手法を習得していけば、いつかは到達することができると思います。

 

だけど、後者の道については、自らの努力だけでは不十分で、やはりそこにはロールモデルとなるような人物像が必要で、軍師・郭嘉(カクカ)にとっては、君主・曹操がそうでした。

 

その意味では、曹操は「王の中の王」たる器があったからこそ、郭嘉(カクカ)が一分野のプロフェッショナルで終わることなく、その分野を更に高度な視点から実現しうる、構想力と行動力を有したリーダーへと転じることができたのだと思います。

 

死に際の郭嘉と曹操のやり取りは秀逸だと思います。

 

曹操:郭嘉、おまえが戦を始める時にだな、いちいち孫子や呉子だのの兵法に照らして兵を動かすわけではあるまい。

郭嘉:まずはじめに私がやりたい戦が脳裡に浮かびます。

曹操:そこが他の軍師との違いだ。最近おまえは俺の意を意識せず実に個人的な欲求から軍略をひねり出す。政(まつりごと)でも同じように考えろ。国の主はなまず自分の食べたこともないもの凄いごちそうの味を描いてしまうんだよ。で、それからその味をつくるため様々な食材を掻き集め、時には、全く新しい調理法を編み出してゆく。それが国を造る法や制度ってものだ。

郭嘉:国、政、実に面白い。

曹操:ならば郭嘉、今、お前が脳裡に描く国の姿を語ってみろ。

郭嘉:しかし殿、今は南を攻める軍略が次から次に溢れて止まりません・・・。

 

王の境地に到達しながらも、最後まで軍師でもあり続けた天才軍師・郭嘉の一生でした。