濡れ鼠 (夢一夜 弐拾伍) | feelsayo 2 

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猫を眺め 猫を被る日々。  
内心 ・・・ です。

2011.01.30 未明にみた夢


煩わしさにささくれた気持ちで帰路に就いた。

空は曇り、しかし暗いという程ではかった。


自分は少し回り道をして、知った顔を避けながら

やや足早に歩いていた。


見なれた坂道が、

人気もなくだだっ広く、急勾配に長く続いていた。


自分は立ち止まり、坂の上を見上げた。

曇り空が広がっていた。

空も道も明るくも暗くもなかった。


「この道は昔からこんな坂だった」

と、

自分は諦念染みた気分で思い直した。


数歩歩いたところで、2度、猫の声がした。

若い頼りなげな、高く澄んだ声だった。


自分は声の方へ歩いた。


坂道の左端は崖のようになっていた。

崖の下には狭い平坦な通りが、坂道と平行に延びていた。


通りの左側には、長屋のような家が連なっていた。

通りの右端には、崖に沿い、廃材が雑然と積まれていた。


廃材の下から猫が這い出してきた。

猫は濡れ鼠だった。


痩せこけた白い猫で、所々に茶色の斑があった。

ほっそりとした顔のせいか、みすぼらしい様子に見えた。


猫は自分を見上げた。

猫の目には目脂が付いていた。



自分はその表情を知っていた。



昔可愛がっていた雉虎猫が、一度だけ、そんな顔で自分を見上げたことがあった。

ハイムテリトリーに侵入した美しい猫が傍若無人に振る舞った後、

雉虎猫は自分を見上げ、そんな顔をしたのだった。



この猫は、為す術もない窮状を訴えている、と、思った。

見れば、

猫の周りの路面も濡れ、雨の後のようだった。



狭い通りに面した長屋のような家から、子供たちが出てきた。

大柄な粗野な子供が一人、いじけたような小柄な子供が二人。

粗末な身形の、垢じみた子供たちだった。


子供たちは猫を見た。

大柄な子供が自分に向って何か言った。腹立たしげな様子だった。

小柄な子供たち二人は猫と自分を見ながら、何か言っているようだった。


子供たちは一様に小意地の悪い表情を浮かべていた。



坂道を上がる方向に二軒か三軒行った先の引き戸が

くすんだ音を立てた。


しみったれた和服を着た、

白髪頭の天辺が禿げた老人が通りに出、こちらを見た。


老人は痩せ、やや前かがみで、暗く不機嫌な様子をしていた。


何か面倒なことを言われるかもしれない、

と、自分は少し身構えるような気持ちになった。



…というところで目が覚めた。