現在、日本は超高齢社会に入り、口腔外科診療において、全身疾患をもたれた患者さんの入院管理・全身管理を行うことが増えてきた。また、摂食障害や誤嚥性肺炎などの高齢者特有の疾患が増加している。
 また、医科歯科境界領域問題に関して、口腔がんにおいては耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域と、唇顎口蓋裂においては形成外科領域との診療範囲が重なり、現在でも口腔外科は耳鼻咽喉科と形成外科の間で患者の取り合いのような状況が続いている。これに対し、平成8年厚生省で歯科口腔外科に関する検討会が開かれ、怒号の飛び交う会議であったようであるが、領域争いに対する具体的問題への対応はその後の問題とされており、現在に至っている。つまり、医師や歯科医師の中で1つと考えられている"医療"は、当時の医師らによって医歯二元化されて以来、真っ二つに分かれているのである。

現在、問題とされていることは、
①医師にしか許されていないはずの医療行為を歯科医師が行っている
②歯科医師が口腔の範囲を超えた領域を口腔疾患と関連づけて扱っている
ことであると思われる。
現に実害も生じている。最近では、歯科医師だけの施設で手術を受けた口腔がんの患者さんが出血で亡くなられている。自分の臨床現場で感じたことからも併せて、これは氷山の一角であると思われる。
医師の立場としては、歯科医師によって医師の権威が犯されるなどプライドの問題は関係なく、医学教養教育を十分に受けていない歯科医師が全身管理を必要とする医療行為を行うことが問題だと言われているのであり、今後も患者に害があっては絶対にいけない。医歯二元論を今後も守っていくべきと考える立場では、医療安全の点から歯科医師、口腔外科医の医学教育は少なくとも急務ではないか。(最近になり、口腔外科医の医学教育と医科と同等の医療安全体制の確立が必要であると、口腔外科学会を代表する先生方が説明しているが、それを将来的に積極的に支持していかなければならないのは医師であると思う。)

 現在の日本の境界領域問題で問題として言われていることは、歯科医師の行うことが許されている診療範囲が明確に線引きできていないことであると言われている。つまり、歯科医師の診療範囲の明確な線引きができていないから、医科歯科連携がうまく進められていないという議論に終始している可能性がある。
 海外ではどうであろうか。先に述べたように欧州をはじめとする先進諸国の口腔外科医の多くはダブルライセンスである。アメリカもボストン大学やハーバード大学では、医師免許と歯科医師免許を4年間くらいで両方取らせるシステムになっており、米国西海岸では、現在移行期に入っている。米国と並んで口腔外科の歯科医師シングルライセンス側の立場であった韓国も、最近になって、医学歯学とも米国式教育改革に踏み切っている、という世界的な流れである。(しかし、アメリカでは口腔外科医は口腔がんは扱っていない。韓国が一番日本と近い状況であるが、抗がん剤は歯科医は扱っていないそう。大阪大学耳鼻科猪原教授)このように、境界領域に対する、具体的な対策がなされている。

 改めて、日本ではどうか。歯科医師の診療範囲が明確に線引きされていないことは、たしかに問題である。そして、今実現するには難しい課題であったとしても、口腔外科医の医学教育はたしかに必要であると思う。しかし、一番の問題は、医歯二元論を遵守している現在の状況下で、境界領域に対して、医師と歯科医師が連携して診療に当たることが当たり前になっていない現状ではないかと思う。線引きは領域摩擦を生まないための有効な手段の1つかもしれないが、両領域間で診療範囲がオーバーラップして重なっていることは、基本的には患者さんにとってプラスなのではないかと思う。なぜなら、両領域の強みが患者さんの治療に活かせるから。だから、線引きするのではなく、オーバーラップさせるために政策を含めた具体的な方法を講じていくことが必要ではないかと思う。線引きを上手に行うことが医科歯科連携ではなく、領域をうまくオーバーラップさせることが本当の医科歯科連携ではないかと思う。その課程の中で、歯科医師の診療範囲の線引きや、ライセンス政策が必要であれば行えば良いと思う。

 医師の側も認識しなければいけないことがあると思う。繰り返しになるが、それは、口腔外科はもともと医師の仕事であったことである。口腔外科学が現在の医学から部分的にか、さらに切り離されようとされている現状は奇妙である。歯科医師による歯科ライセンス単独での口腔外科医業に対する目が厳しくなっている現在であるが、医師は歯科医師が医師のように手術や医療行為が行いたいから、リスクのある手術に踏み切っていると単に考えられがちである。もちろん、それはある。けれども、口腔外科医がこれまでの先代の口腔外科医が培ってきた知識・技術を継承しようとすることは、日本の医療に広く浸透し、国民から信用を得てきた口腔外科医療が衰退し、縮小しないようにするために重要である。医療が医科と歯科に完全に分離されてしまったために、医科との共通部分である口腔外科領域・口腔医学の部分を医学から切り離すことに対して、医師は違和感をもたない可能性があるのではないかと思う。また、医師の中で、歯科の問題は医療の問題ではない、歯科の問題は歯科の問題であるという状況や感覚に陥っているのではないだろうか。