歴代の口腔外科学会常任理事長の瀬戸皖一先生によると、
「国際的にも国内的にも二元論に至る必然性、社会的な背景に関しては詳しい文献に乏しい。」
「日本の歯科医療は世界で最も恵まれた二元制の中で安住し、世界をリードするだけの成果を発信していないまま、医科と比べて周回遅れとなってしまった。しかも、歯科医師の気概は色褪せ、国民の信頼から遠ざかりつつあるのを感じる。要するに発足当初の需要、医科に勝る患者とのラポール、医科との相互信頼など二元論を支援するほとんど全ての要因が失われているので、ここで一元論待望論が出ても不思議ではない。」
「しかし、急に法的に一元論にまで逆戻りするうのは不可能に近く、現在の歯科界にそれだけのエネルギーはない。医科の人たちも弱体化した歯科を一元論で迎えまい。」
と述べている。
しかし、医歯二元論を維持することの患者のメリットはほとんどないと考えられ、今、医歯一元論や知の統合の考えが持ち上がってきている。

 医歯一元論が持ち上がってきている背景には、二元論によって患者に不利益がもたらされている様々な現状があり、今後の患者や医学界へのメリットを考えてのことである。しかし、ここで考えたいことは、医科歯科境界領域に対して、先述したように、医師と歯科医師で連携して患者の診療に当たることが当たり前になっていないことではないかと思う。この前提が日本中で十分にシステム化されていないと、仮に医歯一元化や知の統合をはかれたとしても、まだまだ相互理解の進んでいない医科と歯科との間で、なおも領域摩擦が起こる可能性は拭えない。
 領域摩擦の解決への道は、医療は患者のためにある、という医科歯科共通の青写真(共通願)を忘れないことが前提になると考える。知の統合・医歯一元化はそのための手段に過ぎないと思う。知の統合には時間がかかる。医科歯科境界領域の疾患で今もなお苦しまれている患者さんが多くいるので、まず、できる所から始めたい。それは、繰り返しになるが、医科歯科境界領域の診療に当たっては、医師と歯科医師が必ず連携をとることを日本中の病院で当たり前にしていくことではないかと思う。
歴史の確認になるが、明治に医療が医科と歯科に分かれて以来、医科と歯科は連携や伴走するどころか別々のベクトルを持って進んできた。歴史の振り返りから確認はされないが、今、これまで時代の流れに反して医科歯科の融合へのベクトルが世界中で働き始めている。これは誰かが歴史を振り返って矛盾や問題をついたことで、動き始めた医科歯科の融合の流れではないと思うが、医歯二元論は必要なかったと世間は認め始めているということではないか。
 以下、患者のためにある医療という軸に沿うと、 日本では時間がかかると思うが、おそらく1~4の順でこれからの時代、進行する流れになるのではないかと考え、簡単に青写真を記載してみる。

1.日本中の病院で医科歯科境界領域の診療は医師と歯科医師・口腔外科医が連携して治療に当たることを当たり前にする。
2.(両分野での連携が起動してきた時点で)
医歯二元論を 今後も維持する方が望ましいという立場であれば、医師が口腔外科医の医学教育を行い、医科研修ができるように、口腔外科医のライセンスを医歯ダブルライセンスに近いものにする。もしくは、医歯一元化を行い、歯学部は廃止して、卒後の医師が研修を行うデンタルスクールをシステム化する。
3.1、2で生じる制約に対する対策を行う。
医歯二元論を守る立場では、たとえば、境界領域の診療に当たる医師には口腔外科研修システムを、希望する口腔外科医には耳鼻科研修、形成外科研修システムなどの医科研修システムを整え、日本の口腔外科医療の水準が下がらないように医科の先生方に配慮していただく。そして、保険制度の改正も併せて行い、国民にも理解をいただく。
これにより、頭頸部外科の医師不足も軽減され、入院患者の当直なども医師と歯科医師両者で行えるようになる。
4.医歯一元化が容認されていくか。少なくとも医科と歯科の業界の壁は縮小しているか。

しかしながら、医歯二元論を維持する立場では、医科歯科境界領域の診療において、医師と歯科医師の連携を当たり前にすると、口腔外科医の診療範囲はおそらく完全に口腔に限定したものになり、口腔がん診療などにおいては、(医師に医行為を伴う診療対象を譲ることになるため)これまで行われてきたよりも規模の縮小した口腔外科診療となってしまうだろう。それもあってか、日本の口腔外科医療を守っていくために、いっそのこと、まず医歯一元化した方が良いのでは、という歯科医師の意見も出ているようだ。つまり、結局、医歯ダブルライセンス論は医歯二元論保守論につながり、業界の壁を無くしていくための根本解決にはならないと考えているのであろう。